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相続人の「無責任+欲のぶつかり合い」で資産が消える
相続により、先代からの資産を無理なく承継するには「相続人同士の協力」が重要です。各相続人が自分の利益だけを考えて行動していると、多く手にするどころか、大切な資産自体が雲散霧消することになりかねないからです。弁護士として相続問題に多くかかわってきたなかでも、このような事例は多く目にしてきました。
よくあるのは、東京都心部をはじめとする地価の高いエリアに、先祖代々の土地を保有している方々のケースです。
先代が商業ビルを建設するなどして資産活用を行っていても、相続の段になると建物の老朽化が進み、そのまま利用を継続することが難しくなっている場合は少なくありません。しかし、建物自体は古くても土地の評価額が高いことから、相続税額が大変な金額となってしまい、納税資金の準備が大変なのです。
理想的なのは、被相続人が遺言書を残して資産の配分を明確化し、保険金等で納税資金を準備しておくことですが、実際には、そこまで周到な方ばかりではありません。
なにより皮肉なことに、このような資産を保有している方の相続人は、不動産経営や相続の知識を積極的に得ようという意欲に乏しく、それでいて自らを「資産家の相続人で、次期資産家」と認識している方が多いのです。つまり、相続の見通しが甘く、現実が見えていない状態なのです。
たとえば、商業ビルや賃貸マンション1棟に対して相続人が複数いたとします。不動産はケーキではありませんから、均等に切り分けることはできません。そこで、相続人の意見のすり合わせと合意が必要になってきますが、筆者がしばしば駆り出されるように、話し合いが紛糾することは珍しくありません。言い争いを繰り返している間に、相続対策できる段階はとっくに過ぎてしまい、結局は高額な相続税の捻出ができず、せっかくの価値ある遺産を、大急ぎで、業者の言いなりの金額をのんで売却することになります。
収益物件だけではありません。先祖から受け継いだ広い土地の価格が、地域の土地開発などの影響で高額となっているにもかかわらず、「だれかがどうにかするだろう」と人任せにして、具体的な行動を起こさない所有者、あるいは相続人も多いのです。
そして、いざ相続の段になると、上述した相続人と同様、「無責任+欲のぶつかり合い」によって揉めに揉め、結局は手放さざるを得なくなってしまいます。せっかく資産価値の高い所有地があったのに、言葉を選ばずに申し上げると「無知と無策」のため、財産が雲散霧消してしまうのです。おまけに、親族間には深い亀裂が残ってしまいます。
筆者が関わってきたなかで、とくに印象的な事例があります。
商業ビルを所有していた父親が亡くなり、相続が発生しました。きょうだいは複数人いたのですが、長子の方がイニシアチブをとり、管理会社や清掃業者の手配を行うなど、運営に積極的にかかわっていたのです。ビル自体も価値が高いもので、毎月の賃貸収入も相当な金額でした。そのような理由から簡単に分割ができないため、まずはきょうだいで共有で相続し、長子が賃貸ビル運営をして、ほかのきょうだいには賃料の一部を一定の割合で支払う、という話に落ち着いたのです。
しかし、きょうだいのうちのひとりから、「われわれは長子にいいように騙されているのではないか。管理会社とつながっているのだから、そもそも賃貸料も正確な金額かどうかわからないし、管理会社や清掃業者からキックバックをもらっているかもしれない」といった疑念の声が上がりました。
その結果、長子対ほかのきょうだいという敵対関係ができてしまい、共有物分割訴訟に発展するなど、大変なトラブルになってしまったのです。
長子の方は「ほかのきょうだいはみんな人任せ。全員のためを思って、あちこちひとりで駆け回っていたのに…」と、大変なショックを受けていました。
相続人それぞれが「面倒ごと」と向き合う姿勢が必要
相続が円満に解決している資産家の方々は、事前に万全の対策を取っていることはもちろんなのですが、そればかりではなく、相続前の大変な問題を、それぞれが「自分事」と考え、向き合っています。たとえば、老親の看病や介護、資産管理、相続対策の選択といった手のかかる問題について、相続人ひとりひとりがしっかり向き合っているのです。
老親の面倒をだれが見るのか、見ないきょうだいはどのようにかかわっていくのか。相続税額などの見通しを立てたり、相続対策を練ったりするのも「だれかがやるだろう」と思うのではなく、自らが動き、ほかの相続人と共有し、情報の風通しも見通しもよくしていく。
このような協力関係があってこそ、相続は成功しますし、次世代への資産承継も実現します。大変なことは人任せにし、自分はいい思いだけしようと考える相続人がいる限り、財産の散逸の可能性は拭い去れないのです。
(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)
山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦
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