(写真はイメージです/PIXTA)

テレワークの普及などにより、大阪のオフィス市場は空室率が上昇しています。ニッセイ基礎研究所の吉田 資氏は、大規模開発も予定されるなか、今後の大阪オフィスビル市場はさらに厳しい状況下に置かれると予測します。本記事で詳しく解説します。

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    3. 大阪オフィス市場の見通し

    3-1. 新規需要の見通し

    (1)オフィスワーカーの見通し

    総務省「住民基本台帳人口移動報告」によると、大阪市の転入超過数は2000年以降、拡大傾向にあったが、2021年は+7,893人となり、2020年(+16,802人)の半数以下に留まった(図表11)。

    ※転入超過数=転入人口-転出人口

     

    (出所)住民基本台帳人口移動報告
    [図表11]主要都市の転入超過数 (出所)住民基本台帳人口移動報告

     

    また、2021年の大阪府の就業者数は459.5万人(前年比▲1.0万人)となり、8年ぶりに減少に転じた(図表12)。

     

    (出所)大阪府「大阪の就業状況」を基にニッセイ基礎研究所作成
    [図表12]大阪府の就業者数 (出所)大阪府「大阪の就業状況」を基にニッセイ基礎研究所作成

     

    以下では、大阪のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「近畿地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。

     

    内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「非製造業」の「企業の景況判断BSI」(近畿地方)は、コロナ禍の影響により2020年第2四半期に「▲51.9」と一気に悪化した(図表13)。

    ※ 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感が悪いことを示す。

     

    (出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成
    [図表13]企業の景況判断BSI(非製造業) (出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

     

    その後、回復と悪化を繰り返しながら、2021年第4四半期に「+8.4」まで回復したが、2022年第1四半期は「▲5.1」と再び悪化した。また、「非製造業の従業員数判断BSI」(近畿地方)は、「+25.8」(2020年第1四半期)から「+2.7」(同第4四半期)へ大幅に低下したものの、足もとでは「+13.7」まで回復している(図表14)。

    ※ 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。

     

    (出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成
    [図表14]従業員数判断BSI(非製造業) (出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

     

    しかし、「全国平均」の動きと比較した場合、近畿地方のコロナ禍からの回復ペースは鈍い傾向にある。

     

    大阪市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、大阪府の就業者数は8年ぶりに減少に転じた。また、近畿地方の「企業の経営環境」は本格的な回復には至っておらず、コロナ禍が「雇用環境」に与えたダメージは全国平均と比べて大きいと言える。以上のことを鑑みると、大阪市のオフィスワーカー数の拡大は力強さに欠けることが予想される。

     

    (2)在宅勤務の進展に伴うワークプレイスの見直し

    パーソル総合研究所の「新型コロナウィルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によれば、大阪府におけるテレワーク実施率(2021年8月調査)は28%となった。

     

    1回目の緊急事態宣言直後(2020年4月調査)に大きく上昇した後、概ね横ばいで推移している(図表15)。大阪府のテレワーク実施率は東京都を下回るものの愛知県より高い状況にあり、「在宅勤務」を取り入れた働き方が一定程度定着しているようだ。

     

    (出所)パーソル総合研究所「新型コロナウィルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成
    [図表15]従業員のテレワーク実施率 (出所)パーソル総合研究所「新型コロナウィルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

     

    また、大阪府商工労働部・政策企画部「新型コロナウィルス感染症に関する府内企業の実態調査」(2021年7月調査)によれば、大阪府のテレワーク(在宅勤務)導入率は41%で、業種別にみると、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」で95%、「金融業、保険業」で68%、「学術研究、専門・技術サービス業」で66%となっている(図表16)。

     

    (出所)大阪府商工労働部・政策企画部「新型コロナウィルス感染症に関する府内企業の実態調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成
    [図表16]大阪府 テレワーク(在宅勤務)導入率 (出所)大阪府商工労働部・政策企画部「新型コロナウィルス感染症に関する府内企業の実態調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

     

    こうしたなか、大阪市でもワークプレイスの見直しを検討する企業が増えている。ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査 2021 秋」によれば、「ワークプレイス戦略の見直しの着手状況」に関して、「既に着手している」との回答は1割にとどまるが、着手予定を含めると全体で5割を超える(図表17)。今後、ワークプレイスの見直しが順次拡大することが予想され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。

     

    (出所)ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査 2021 秋」をもとにニッセイ基礎研究所作成
    [図表17]ワークプレイス戦略の見直しの着手状況 (出所)ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査 2021 秋」をもとにニッセイ基礎研究所作成

     

    (3)大型イベント開催(大阪・関西万博)の経済波及効果への期待

    2025年開催予定の大阪万博による経済効果への期待は大きい。日刊工業新聞社が2022年に実施した「関西の有力企業アンケート」によれば、大阪万博に「関心がある」と答えた企業は92%に達した。「関心がある」と回答した企業のうち、「自社技術や製品・サービスを会場で披露する」と回答した企業は47%であり、万博をビジネス拡大の機会と捉える企業は多い

    ※ 日刊工業新聞「「大阪万博に関心」92%、本社が関西企業調査 IRは「負の側面」懸念」2022/3/18

     

    また、万博では、新技術・サービスの導入も計画されている。会場内と周辺地域を結ぶ交通手段として、「空飛ぶクルマ」の導入を目指しており、国土交通省は2022年3月に「空飛ぶクルマ」の試験飛行に関するガイドライン※1を公表した。1時間20便程度の運行を目指すとしており、会場である夢洲と、(1)大阪市内、(2)大阪湾岸部、(3)伊丹空港、(4)神戸空港、(5)関西国際空港、(6)神戸市内、(7)淡路島、(8)京都・伊勢志摩等をそれぞれ結ぶ8ルートが、候補となっている※2

    ※1 国土交通省「「空飛ぶクルマ」の試験飛行等に係る航空法の適用関係のガイドライン」

    ※2 日本経済新聞「空飛ぶクルマ、大阪万博で8路線・1時間20便 初の実用化」2022/3/17

     

    経済産業省によれば、万博の経済波及効果は2兆円(建設費約0.4兆円 運営費約0.5兆円 消費支出約1.1兆円)と試算されており、オフィス需要にもプラスの効果が期待できそうだ。

     

    一方で、当初、万博開催前の開業を計画していた「カジノを含む統合型リゾート(IR)」は、開業時期が「2029年の秋から冬頃」へと後ろ倒しとなった※1。また、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、海外からのパビリオン誘致が目標を大幅に下回っているとの報道もあり※2、上記の経済波及効果が未達となる懸念もある※3

    ※1 日本経済新聞「大阪IR、29年秋にも開業 市は環境対策に約790億円」2021/12/21

    ※2 150カ国25国際機関の目標に対し、これまで出展を表明したのは72カ国6機関。

    ※3 産経新聞「万博効果2兆円に2つの懸念 誘致遅れと資材高騰」2022/1/18

     

    3-2.新規供給見通し

    大阪のオフィスビルの新規供給は、2014年以降、限定的な状況が継続していた(図表18)。

     

    (出所)三幸エステート
    [図表18]大阪のオフィスビル新規供給見通し (出所)三幸エステート

     

    しかし、2022年は「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」、「新大阪第3 NKビル」、「日本生命淀屋橋ビル」等、大規模ビルの竣工が複数予定されており、新規供給量は9年ぶりに4万坪を超える見込みである。2023年は一旦落ち着くものの、2024年は「梅田3丁目計画(大阪中央郵便局跡)」や「(仮)大阪駅新駅ビル」、「うめきた2期」等の大規模ビルが竣工する予定であり、新規供給量は約7万坪に拡大し、2009年に次ぐ大量供給となる見込みである。

     

    3-3. 賃料見通し

    前述のオフィスビルの新規供給見通しや経済予測、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2026年までの大阪のオフィス賃料を予測した(図表19)。

    ※ 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2021~2031年度)」(2021.10.13)、などを基に設定。

     

    (注)年推計は各年下半期の推計値を掲載。 (出所)実績値は三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」 将来見通しは「オフィスレント・インデックス」などを基にニッセイ基礎研究所が推計
    [図表19]大阪のオフィス賃料見通し (注)年推計は各年下半期の推計値を掲載。
    (出所)実績値は三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」
    将来見通しは「オフィスレント・インデックス」などを基にニッセイ基礎研究所が推計

     

    大阪市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、大阪府の就業者数は8年ぶりに減少した。近畿地方の「企業の経営環境」や「雇用環境」についても、コロナ禍からの回復ペースは全国平均と比べて鈍く、オフィスワーカー数の拡大は力強さを欠くことが予想される。

     

    また、「在宅勤務」を取り入れた働き方が定着し、ワークプレイスの見直しが進んでいる。景気への波及効果が期待される大阪・関西万博についても、コロナ禍の影響に留意する必要がある。以上を鑑みると、大阪のオフィス需要は当面弱含みで推移する見通しである。

     

    一方、新規供給については梅田駅や淀屋橋駅を中心に複数の大規模開発計画が進行中である。2024年には2009年に次ぐ大量供給を迎える予定であり、今後、大阪の空室率は緩やかな上昇が継続すると予想する。

     

    このため、大阪のオフィス成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い下落基調で推移する見通しである。「2021年の賃料を100とした場合、2022年の賃料は「99」、2026年は「91」に下落する」と予想する。ただし、ピーク(2021年)対比で▲9%下落するものの、2018年の賃料水準(85)を上回り、リーマンショック後にみられた大幅な賃料下落には至らない見通しである。

     

     

    吉田 資
    ニッセイ基礎研究所

     

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    ※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    ※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年3月30日に公開したレポートを転載したものです。

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