診療報酬を決める「DPC制度」が導入された2003年以降、診療報酬に対する考え方が180度変わったと、株式会社アリオンシステム代表取締役社長の山本篤憲氏はいいます。医療行為は収益であるというこれまでの考えから一転、医療行為はコストであるという前提に立っている「DPC制度」により、医療現場はどのように変わったのか、みていきましょう。

「患者が安心するまで入院させる病院」は赤字になる

入院患者のなかには、「手術から1週間も経っていないのに、もう退院していいの?」などと不安に思う人も多いようです。まだ痛みが残っている状態で自宅へ戻っても大丈夫だろうか、家には看護師さんのようにケアをしてくれる人がいなくて心細い。

 

手術で入院した患者は、多くの場合こうした不安を抱えています。退院を勧める病院に対し、「もう少し病院にいさせてくれたらいいのに、追い出されるみたいだ」といった不満を抱く人も少なくありません。

 

かつて医療提供側としても念には念を入れて、医師が長めに入院期間を確保していた時期もありました。ただ、それはかえって患者の社会復帰を遅らせてしまう一面もあるのです。

 

患者を思うからこそ、病院内に赤字の要因が生まれているという話をさまざまな角度でしてきましたが、必要以上に入院期間を取ることもまた、病院経営を圧迫する大きなリスクとなっています。

 

DPC制度が導入されたあと、入院基本料や投薬といった要素を包括して算出する費用と手術や麻酔など出来高で計算する費用との合算で、医療費は出されるようになりました。

 

診断分類ごとに定められた入院1日あたりの点数が入院期間中一律であればまだよいのですが、DPCルールではこの1日あたりの点数が在院日数に比例して変動します。具体的には、入院初日から数日間を期間Ⅰ、その翌日からさらに数日を期間Ⅱ、そのさらに翌日以降を期間Ⅲというように、入院期間は大きく3分割されます。

 

期間Ⅰの1日あたりの点数が最も多く、期間Ⅱ、期間Ⅲと、日数の増加に比例して点数は下がっていきます。そして期間Ⅲを過ぎると診療報酬は出来高制に移行しますが、そこまで病院にいてしまうと、そもそも入院させていること自体が割に合わない報酬設定となります。

 

いかに「患者が安心できるまで」という善意であろうとも、患者を病院に入院させ続けることは、病院経営の観点からすれば、決して良いこととはいえないのです。一般病床での平均在院日数については、1984年度は平均40日もありましたが、2016年度には16日となっています。

 

もちろん出来高制だろうとDPC制度だろうと「与え過ぎ」は医療資源の、ひいては医療費の無駄遣いであることは間違いないという前提に基づきます。

 

もし患者の要望に負けて主訴とする疾患以外の治療も行っていれば、その分の報酬は主訴疾患に対する1日あたりの点数に含まなければならないため、赤字額も大きくなってしまいます。

 

患者に寄り添った治療やケアが病院を赤字に向かわせるというジレンマがDPC制度下では起こるのです。

 

 

山本 篤憲

株式会社アリオンシステム

代表取締役社長

 

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※本連載は、山本篤憲氏の著書『病院を発展・黒字化させる 電子カルテイノベーション』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

病院を発展・黒字化させる 電子カルテイノベーション

病院を発展・黒字化させる 電子カルテイノベーション

山本 篤憲

幻冬舎メディアコンサルティング

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