大手企業一社との密接な関係に安住し、営業部門さえ持つことなく長年ビジネスを成立させてきた、ある中小企業のストローメーカー。しかし、唯一の取引先との関係が終了することになり、絶体絶命のピンチに陥ってしまいます。そこで、新規顧客獲得のために検討したのが、同業者とのM&Aでした。計画は無事に成功しましたが、それは独自の確立された技術があっってこそのものでした。

ノウハウが分からなければ真似されない

多品種小ロット生産は、多様なストローを作る技術がシバセ工業独自のものであったからこそ実行できた戦略です。

 

といっても、ストローの作り方は昔から変わりませんし、同業他社と似たような機械です。また、押出成形と呼ばれる技術は、金型から筒状に押し出したものを水槽で冷やしたあとにカットするだけですので、一般的なパイプやチューブと作り方は同じです。どこも同じような機械ですが、その機械に独自の改造を繰り返すことで、他社の真似できないような多品種を作ることができるようになりました。

 

例えば、金型の出口によってストローの大きさが変わります。多品種を作るには金型交換の段取り時間を短縮しなければなりません。シバセ工業も、昔は半日かけて金型を交換していましたが、金型を自社で設計することで今では10分あれば交換できます。

 

またストローの品質は、水槽の水温や圧力、エアーの圧力や流量、口金の形状や水や空気の流れなど多くの製造条件で変動するので、製造ノウハウがたくさんあります。昔は、職人芸といわれるように長い経験のある職人でないと調整できなかったノウハウを、現在はできるだけ数値化したり、センサーでモニタリングするなどして、短い経験者でも良い製品が製造できるように改善を続けてきました。

 

2004年に口径13mmのストローを開発してから、2020年に口径20mmのストローが開発されるまで15年以上かかりました。それだけ薄い肉厚で口径を大きくすることは難しいので、同業他社が取り組んでも難しい技術ですし、ストロー製造技術のない一般のパイプメーカーでは作ることができません。

 

そのため、模倣されない技術や製品は他社との差別化になります。真似されなければ価格競争も起きないため事業を長期間持続でき、かつ独占的に展開することができます。これは企業の規模に関係なくすべての企業にとっての強みになります。いかに真似できない要素を作り出すかが重要で、模倣が難しいほど競合に対する参入障壁を高くできるのです。

 

シバセ工業の強みは、技術を「プラスチックの薄肉パイプ」という分野に絞り込んで、1番を作り出してきたことです。できるだけ単純な分野に絞り込めば、中小企業でもほかに真似できない技術に仕上げることができます。

 

 

井上 善海

法政大学 教授

 

 

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井上 善海

幻冬舎メディアコンサルティング

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