買物が楽しかった時代があった。(※写真はイメージです/PIXTA)

店舗にはメディアとしての価値があると考えるべきです。その価値を測らなければ、閉めなくていい店まで閉鎖してしまうだけでなく、多くの店の閉鎖とともに、「実店舗」のメディアの価値をドブに捨てることになります。どのように考えればいいのでしょうか。小売コンサルタントのダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で解説します。

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    コロナ禍の相次ぐ店舗閉鎖は本当に正しいのか?

    ■実店舗での体験価値を見極める

     

    では、実店舗の正しい価値とは何か。いい質問だ。2つの要素が必要である。まず顧客のインプレッション1件当たりの価値について、社内的に合意しておく必要がある。次に、平均的なインプレッションの「質」の測り方だ。

     

    ▼インプレッションを評価する

    今挙げた2つの要素のうち、最初の要素であるインプレッション当たりの価値については、社内的な合意を得るうえで、専門的な知識に基づく想定が欠かせない。これは、四半期ごとの株主向け決算報告に書くような数値ではない。大事なのは、適切で現実味のある数字だと、社内的に受け入れられるかどうかだ。議論の足がかりとして、1つ提案しておこう。

     

    店内で顧客が味わうプラスの体験1件の価値は、有効性の面から言えば、フェイスブックにちらっと現れる広告のインプレッションと比べて5倍の価値があるとの想定で考えてみてはどうか。フェイスブックのインプレッション単価が0・8ドルだとすると、店舗で得られるインプレッションの価値は4ドルになる。

     

    仮に、先ほど話題に上った某美容系ブランドの店内の年間インプレッションが1億回だとすれば、年間4億ドルの価値を生んでいることになる。ところが、同ブランドでは、売り上げと利益しか見ていないから、誰もこの店舗というメディアの価値を説明できないのだ。

     

    ▼インプレッションの質を見極める

    インプレッション単価が決まったら、次のステップはインプレッションがどの程度のプラス効果またはマイナス効果だったかを見極めることだ。私の経験では、公正に評価する一番効果的でわかりやすい尺度としては、ネットプロモータースコア(NPS、顧客推奨度)を見ることだ。

     

    平たく言えば、NPSとは顧客があなたの店でショッピングしたときの体験を「いい」「悪い」「どちらでもない」のいずれかで格付けし、それぞれの割合を見るものである。店舗のNPSが非常に良好であれば、この価値を社内的なニーズに応じて、店舗の業績指標に加えればいい。

     

    要するに、ある店舗が100万ドルの売り上げを計上していたとしても、実はメディアとしてさらに10万ドルの価値を生み出しているかもしれない。

     

    NPSが良好の場合、メディアとしての価値も同様に良好とみなすことができる。NPSが中立(「どちらでもない」の割合が多い)の場合、体験の良しあしについて賛否両論に分かれていて、インプレッションの価値が差し引きゼロになっていると考えられる。NPSが悪い(「推奨しない」の割合が多い)場合、メディアの価値もマイナスで、店を開けるたびにブランドに重大な傷をつけている可能性がある。

     

    このような評価方法は極めて重要だ。というのも、今、小売りのデジタル化がとんでもないスピードで進んでいて、やがて大部分の商品の購入がネットに移ろうとしている。

     

    私は、早ければ2033年ごろには、そのような状況になっていると見ている。そんな流れのなかで、店舗の価値を判断する手段が売り上げと利益だけという状態では、ゆくゆくは全店舗を閉鎖したくなるはずだ。だが、それは大きな間違いだ。店舗にはメディアとしての価値があるからである。

     

    その価値を測らなければ、閉めなくていい店まで閉鎖してしまうだけでなく、多くの店の閉鎖とともに、何百万ドルにも及ぶメディアの価値をドブに捨てることになる。

     

    わかりやすい例を挙げよう。A店は年間500万ドル相当の商品を売り上げていて、同ブランドに対するプラスのインプレッションが200万ドル相当だとすると、この店の真の貢献額は、少なくとも社内的な視点で見れば、700万ドルの価値があるわけだ。一方、B店は、800万ドルの売り上げがあるが、ブランドのマイナスのインプレッションが300万ドルだとすると、貢献額は差し引き500万ドルに落ちる。

     

    1店舗閉鎖せざるを得ないとすれば、どちらを選ぶだろうか。売り上げのみで判断するなら、単純にA店を閉鎖となるはずだが、これは完全な失策だ。そうではなく、社内で合意の取れた顧客1人当たりのメディア価値も含めて計算すれば、各店舗の真の貢献度を反映し、もっと正確な判断を下すことができる。

     

    なるほど、私がよく訪れる小さな店があるのだが、こちらは顧客として素晴らしい体験が味わえて、ブランドへのインプレッションも非常に高い。一方、価格帯がかなり高く、凝ったつくりの旗艦店に足を運ぶこともあるが、こちらはどう見てもひどい応対で、ただただブランドの価値を落としているだけの店だ。売り上げだけで比較するなら、この隠れた違いはつかめない。いや、それどころか、閉めるべきではない店を閉めてしまう可能性さえある。

     

    ダグ・スティーブンス
    小売コンサルタント

     

     

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    ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

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    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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