(※写真はイメージです/PIXTA)

家賃相場13万円の物件を5万円で貸しだしていた家主。ある日、物件を自宅として使用したいと考え、借主に退去をうながすと「子供が大きくなるまで住ませてほしい」とお願いされました。そこで、「10年後に明渡す」という条件付きで合意解約書を交わしたところ、借主が期限間近に「あの合意は借地借家法に反しており無効だ」と言いだしたのです。この場合、借主の主張は認められてしまうのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。

「10年後」の期限は有効…裁判所が認めた「理由」

本件は、東京地方裁判所平成5年7月28日判決の事例をモチーフにしたものです。

 

この事例は、10年後というかなり先の期限に解約するという合意をしたことについて、「これを不当とする事情」がないかという点が問題となりました。

 

この点について、裁判所は、

 

・貸主は、自己使用の必要性から本件賃貸借契約の期間が満了するにあたって契約更新を拒絶したが、借主の事情を考慮して、賃料は従前のまま一か月金五万円に据え置いたまま10年後まで賃貸借を継続することを約したこと

 

・借主は、右期限の到来により本件建物の明渡しを約したが、本件賃料は、本件賃貸借契約の当初である昭和五一年一二月一七日から右期限付合意解約の期限到来に至るまでの間、改訂されることなく金五万円のまま据え置かれ比較的低廉な賃料のまま据え置かれていたこと

 

・本件賃貸借の合意解約に至るまで一〇年という期間があったにもかかわらず、この間、被告において明渡しを前提とした配慮等をした事情も何ら窺えないこと

 

等の事実を認めた上で、これが本件期限付解約合意を不当とする事情に該当すると認めることはできない(したがって有効)、と判断しました。

 

本件の「10年後を期限」とした合意解約は、かなり期限が先であり、一般的には有効性が認め難いと見られる期間設定ではありますが、家賃がかなり低廉で据え置かれたことや、貸主の自己使用の必要性が強く認められたという事情から、裁判所も有効と判断したと考えられます

 

したがいまして、期限付合意解約をする場合において、例えば1年を超えるような先の期限を設定する場合には、そのような期限を設定する合理的理由が必要となることに留意して合意すべきです。

 

※この記事は、2020年7月28日時点の情報に基づいて書かれています(2022年3月18日再監修済)。

 

 

北村亮典

弁護士

こすぎ法律事務所
 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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