(※画像はイメージです/PIXTA)

毎日4〜5時間の睡眠で仕事してきたSEはいわゆる睡眠負債で頭が働かなくなり、1カ月の休みを取ることになりました。いざ出社してパソコンを開いたら、ざっと2万通ものメールが届いていたそうです。そのSEはどうなったのか。精神科医が著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)で解説します。

コミュニティーの喪失が自殺をもたらす

平成の世は、天災には襲われたが戦乱はなくかなり豊かな時代であった。

 

しかし今、私のクリニックには不安を訴える人が多数やってくる。精神の病はどのような病であれ不安を内在しているが、狭義の精神障害から外れる人々が訴える症状の中核にも不安があることは疑う余地がない。

 

不安が増大している理由の一つは、コミュニティーを喪失し、人と人との関係が希薄化したからと考えている。ある自治体の自殺対策委員をしている私は、自殺対策のさまざまな政策の一つに「コミュニティーの充実」を挙げさせてもらった。自殺は人と人とのリアルな関係の希薄化の中でよく起きるからである。

 

今や人々は関係を持つことに警戒的になり、核家族や離散的な生活を基本とし、他者から干渉されにくい孤立した生活を「安心で自由」と思い込んでいる。マンションなどの集合住宅のみならず住宅街においても、近所付き合いは煩わしさを伴うとして、コミュニティーが育たない。

 

そして、家族の一人が病んだ時、その負担を家族だけで背負うしかないことに、ふと思い至ることになる。よそ者は一目でわかるから、玄関を開けたまま外出できたのは昔話。今は必ず施錠して防犯カメラを設置し、子供らに「知らない人は人さらいと思え」と教え込む。そういった日常が気づかぬ形で無意識の中に不安を醸成しているのではないか。

 

核家族の孤立化は、子供の虐待や不登校の増加にも関係しているように思える。安心安全を過度に求める風潮も、裏返せばその不安の投影かもしれない。

 

遥かな昔、人々が村社会といわれる共同体で暮らしていた頃、村はずれに棲すむシャーマンは、今どきの医学よりもはるかに効率よく人々を癒やしていたと私は思っている。彼らの行いが非科学的であると決めつけるのは科学のおごりである。

 

今どきの医者より彼らのほうがおなじ村人である患者についての情報を持っていた。生まれ育った土地の風土をよく知り、山野に育つ草木や生き物から作られた薬物も、日々自ら食してその効能を体験的に知っていたから処方を過つことが少なかったはずだ。

 

もちろん、こうした体験的情報は分析的に証拠を示しうるようなものではなく、無意識的なものがほとんどだが、その「共通の無意識」こそが病める者とシャーマンとの間の共感力の基礎となる。

 

この共感力は、不安を払拭するにすこぶる有効なのに、近代医学においては軽んじられているようだ。大航海時代以来、さまざまな伝染病が海を渡り山を越え自然のバリアーを破って蔓延した時、人と人とをつなぐ共感力よりも、科学が得意とする「分析して隔離し、撤去する」手法が有効であったからかもしれない。

 

ただ、この手法は精神の病においてはさほど役に立たない。むしろ、さまざまな病の情報を流し、過剰ともいえる警告を発することで、人々の不安を煽っている。

 

不安は免疫力を低下させさまざまな病を招くことは、昔から知られた事実である。その昔シャーマンたちの唱えた呪文は今の世界では無論通用しない。しかし、その土地の共同体の中では我々が用いる精神療法より、よほど不安の払拭に役立ち、人々の免疫力を高めたに違いない。

 

人という生き物が地上で繁栄しえた条件の一つは、五感を駆使して触れ合えるコミュニティーにあることは間違いがない。

 

遠山 高史
精神臨床医

 

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    ※本連載は遠山高史氏の著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

    シン・サラリーマンの心療内科

    シン・サラリーマンの心療内科

    遠山 高史

    プレジデント社

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