戦後の高度成長が落ち着くとバブルになりました。バブルが崩壊して、資金が実体経済のほうに回らなくなってしまい、日本では実体経済が低迷したまま金融経済ばかりが拡大しているのです。それはなぜでしょうか。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

「ニクソンショック」の本当の意味

その金は当時アメリカに集中していました。ヨーロッパが戦火に見舞われていたので、ヨーロッパ各国は保有する金を緊急避難のためアメリカに預かってもらっていたのです。アメリカに預けていれば安心だからです。加えてアメリカはヨーロッパに軍事物資の援助をしており、それが金で支払われたこともありました。

 

この国際会議で採用されたのが「ブレトンウッズ体制」と呼ばれる「金ドル本位制」です。具体的には「金1オンスは35ドルと固定し、金と交換可能な通貨はドルのみとする」こと、そして「ドル以外の通貨はドルとの交換比率を固定し、変動率はプラスマイナス1%以内にする」ことでした。

 

これにより各国は固定相場制で安定した貿易が可能になり、国際決済には金によって価値が保証されるドルを使いました。仮にアメリカの経済が停滞しても、ドルを使えば、必ず金と交換してくれました。

 

ところが、例えばどこかの政府がドルをいっぱい抱えたとして、「さあ、アメリカさん、私は金が欲しいから、このドルと金を交換してください」とアメリカ政府に言うとします。そうすると、アメリカ政府は「はて、困った」となります。こういう要請にすべて応じてしまうと、金が底をついてしまうからです。

 

まして1960年代になるとヨーロッパも復興し、アメリカへの輸出が増えてきています。国際決済はドルが使われているので、ヨーロッパにはドルが溢れるようになります。加えてベトナム戦争による軍事費拡大でアメリカは財政赤字に陥りました。

 

アメリカは次第にドルと金との交換を渋るようになり、少しずつ追い詰められていったのです。これでは市場に「このままドルが過剰に供給されれば、金と交換できなくなるのでは? 危ないからいまのうちに交換しておこう」という気運が生まれます。

 

実際、フランスのド・ゴール大統領が1960年代中盤、フランス銀行(中央銀行)に指示し、ニューヨーク連邦準備銀行に預けてある自国保有の金をすべて引き出して、フランスに持ち帰らせています。加えて、保有していたドルのほとんどを金に交換するようアメリカに迫りました。

 

ニューヨーク連銀の金庫にある金だけでは足りず、アメリカ政府は急きょ輸送機を飛ばし、ケンタッキー州フォートノックス陸軍基地内にある連邦政府金保管所から積み出すザマになりました。これは「ド・ゴールの金戦争」と呼ばれています。アメリカは強く反発しましたが、フランスは金との交換を強行したのです。ちなみにド・ゴールだけです、こんなことをやったのは。

 

そして1971年8月13日に、イギリスがアメリカに30億ドルの金交換を申し出たとき、フォートノックスの金保管所はすでに空っぽ同然、アメリカは持ちこたえることができなくなりました。結局翌々日、ニクソン大統領が金とドルの交換停止を宣言し、ブレトンウッズ体制は終了したのです。これがニクソンショックです。

 

ただドルには強さの秘密があって、金の裏付けがなくても、世界の主要な商品の国際取引は、ことごとくドル建てで行われています。原油、天然ガス、小麦、大豆、トウモロコシ、金、銀、銅などです。つまりアメリカは、輪転機を回してドルをどんどん刷れば、いくらでも買えるという話になる。だから圧倒的に強いわけです。きっとニクソンも「何も俺が金の束縛なんか受ける必要ないだろう。こんなのばかばかしくてやってられるか」ということだったのかもしれません。

 

同年12月、金とドルの交換は停止したまま新しい固定相場制を導入(「スミソニアン体制」と呼ばれます)しましたが、これはドル安誘導でアメリカの輸出増加を狙ったものだったため長続きせず、わずか1年半ほどで停止となりました。

 

そして各国が変動相場制への切り替えをし、それ以降金融市場の規模がどんどん拡大して現在に至っているということです。

 

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本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

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