(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事では、現役医師である中村重信氏、梶川博氏が、家族や医療従事者が知っておきたい認知症の治療法について解説していきます。

糖尿病、糖質異常症の若者が増加しているワケ

最近、塩辛いものに代わって、甘いものを食べる若い人が増えてきました。また、車社会では身体を動かす時間が減り、糖の燃焼が体内で低下し、インスリンの分泌に負担がかかり、脂肪の合成が促進され、糖尿病や脂質異常症が増えています。

 

その結果、高血圧の場合と同様に、脳に血液を送る動脈に動脈硬化が起こり、脳梗塞や脳出血を介して血管性認知症が発症します。したがって、高血圧だけでなく糖尿病を若い頃からいかに防ぐようにするかもまた、重要なポイントとなります。

 

血圧を下げる降圧薬が数多く開発され、日本でも広く使われています。塩分を尿に出す利尿薬、細い血管を収縮させて血圧を上げるカルシウムの働きを抑えるカルシウム拮抗薬、腎臓から放出されて血圧を上げるアンギオテンシンというタンパクの働きを抑える薬、副腎から放出されて血圧を上げるアドレナリンの働きを抑える薬など百花繚乱です。

 

降圧薬を上手く使うと血圧を下げるだけでなく、認知症になる人も減ります。

 

血圧を下げる治療は血管性認知症の予防になりますから、40~50歳の中年期から始めて下さい。どの種の降圧薬が最も有効かについては、まだ十分なデータはありませんが、いずれの降圧薬を使ってもよいですから高血圧を正常血圧まで下げることが必要です。

 

さらに、高血圧の人は血管性認知症だけでなく、アルツハイマー病にもなりやすいので、高血圧があると分かったら、すぐに治療することは認知症予防の上で非常に重要です。血圧を正常化して、認知症になることを避ける努力をしたいものです。

糖尿病のある人ほど脳梗塞・血管性認知症になりやすい

糖尿病のある人ほど脳梗塞を起こしやすく、血管性認知症にもなりやすいことが知られています。さらに、糖尿病はアルツハイマー病の危険因子です。糖尿病の人は動脈硬化が進み、脳の中・小の動脈が詰まって血管性認知症になりやすいようです。

 

しかし、糖尿病の人がなぜアルツハイマー病に罹患しやすいのかはまだ十分には分かっていません。

 

糖尿病の治療はまず、食事と運動を上手くコントロールすることです。とくに、若い頃からの生活習慣が大切です。前にも述べたとおり、甘いものを食べる若い人が近年増え、車社会で身体を動かす時間が少なくなったため、体内でブドウ糖が利用されなくなり、インスリンの分泌に負担がかかります。甘いものを多く食べすぎず、体を動かすことが大事です。

 

多くの糖尿病治療薬も医療上、使われています。低下したインスリンの分泌を促進する薬、インスリン自体を補う治療、インスリンの効果を高める薬、ブドウ糖の腸からの取り込みを抑える薬、ブドウ糖を腎から排出させる薬などです。

 

食事量、活動量、体調を考慮して、中年期から血液中のブドウ糖濃度や赤血球のヘモグロビンに結合したブドウ糖の割合(HbA1c)を測定して薬の量を決めます。認知症の人は食事量や活動量など不確定な要因が多いので、HbA1c7.5%程度を目標にしてコントロールすればよいでしょう。

認知症患者の糖尿病治療…注意すべきポイントは?

認知症の人の糖尿病を治療する場合、食事量が一定しないため低血糖発作に注意すべきです。低血糖により脳のブドウ糖が減ると、意識が障害され周囲の状況が分からなくなるとか、発汗が高まるなどの症状が出ます。低血糖が続くと、海馬などが障害されて、認知障害がさらに強くなるので是非避けたいものです。

 

甘いものなどを食べすぎると、脂肪の合成が促進され、中性脂肪やコレステロールが増えます(脂質異常症)。

 

コレステロールや中性脂肪は太い血管の動脈壁に溜まって動脈硬化を起こします。動脈硬化が進むと脳血栓を起こして、血管性認知症に進むことがあります。

 

脂質異常症を防ぐには、若い頃からの食事や運動への気配りが欠かせません。とくに、肥満はアルツハイマー病などの認知症を起こしやすいようです。食事が豊かで車社会という現在のわが国の生活習慣は認知症を防ぐには好ましくないことを熟知しておく必要があるでしょう。

 

高コレステロール血症の治療薬スタチンは、ブドウ糖からコレステロールをつくる過程を阻害して、血液のコレステロールを減らします。効き目は良いのですが、まれに筋肉を損傷する副作用があり、下肢が痛むので注意が必要です。

 

脳血管障害を起こさせるようなその他の誘因が血管性認知症を増悪させるため、それらの因子を取り除くことが大切です。悪化させるものとして、喫煙、肥満、運動不足などの生活習慣、膠原病、痛風などの病気があるので、生活習慣を改善して、病気を治療することが勧められます。

 

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中村重信

京都市出身、1963年京都大学医学部卒。1990~2002年広島大学医学部内科学第三教授、2002年~広島大学名誉教授/洛和会京都新薬開発支援センター所長(現在顧問)。2005年~公益社団法人「認知症の人と家族の会」顧問。主な著書:ぼけの診療室(紀伊国屋書店、1990)、痴呆疾患の診療ガイドライン(ワールドプランニング、2003)、老年医学への招待(南山堂、2010)、私たちは認知症にどう立ち向かっていけばよいのだろうか(南山堂、2013)受賞:日本認知症ケア学会・読売認知症ケア賞「功労賞」(2017)

 

梶川博

広島県広島市出身。1957年修道高等学校卒業、1963年京都大学医学部卒。1964聖路加国際病院でインタ−ン修了、医師国家試験合格、アメリカ合衆国臨床医学留学のためのECFMG試験合格、1968年京都大学大学院修了(脳神経外科学)医学博士。1970年広島大学第二外科・脳神経外科(助手)、1975年大阪医科大学第一外科・脳神経外科(講師、助教授)。1976年ニューヨーク モンテフィオーレ病院神経病理学部門(平野朝雄教授)留学。1980年梶川脳神経外科病院(現医療法人翠清会・翠清会梶川病院、介護老人保健施設、地域包括支援センター)開設、現在会長。医学博士。1985年槇殿賞(広島医学会会頭表彰)、1996年日本医師会最高優功賞。日本脳神経外科学会認定専門医、日本脳卒中学会認定専門医、日本脳神経外科救急学会・日本神経学会・日本認知症学会会員、広島県難病指定医、広島県「もの忘れ・認知症相談医(オレンジドクター)、日本医師会&広島県医師会、日本医療法人協会&全日本病院協会広島県支部所属。メールアドレス hkajikawa@suiseikai.jp

 

 

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    本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『認知症の人が見る景色 正しい理解と寄り添う介護のために』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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