(※画像はイメージです/PIXTA)

外来に30年通い続けている統合失調症の女性がいます。ある診察日に浮かない顔で、「別れた夫から、お金を貸してくれと言われたが、どうしたらいいか」と話したという。彼女が夫と別れたのは、はるか30年も前のことです。元妻が取った行動とは。精神科医が著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)で解説します。

「荒海とヨット」のエクスタシー

グアム島から7人のベテランセーラーとヨットに乗り、2週間かけて日本まで約2400キロの船旅をしたことがある。グアムの天気は晴朗なれど波高しで風もほどよくあり、出航直後は快適なクルージングであった。しかし、私は乗って半日もしないうちに、船酔いでキャビンに転がっていた。

 

ヨットは動力船より安全な乗り物だが、乗り心地は良いとは言えない。とくに船酔いは難敵である。体中の力が抜け、動けなくなり、胃液も吐き出したくなる。キャビンを汚せないので、やっとの思いでデッキに這い上がり、海に頭を突き出しゲロゲロやる。早く船から降りたいが、一度乗ったら、とにかく陸に着くまでは降りることができない。

 

この降りられないという感覚は格別である。冷静に考えると、別に船に乗らずとも、私たちは自分の属する会社や家庭という船から降りられず、逃げ出すことができない。こういった逃げられない環境では、ちょっとしたことでもかなりのストレスになることがある。

 

ストレスがかかると、身体の中で防御ホルモンが分泌されるが、それが血中に長く留まると逆に毒性を帯びだし、脳の細胞を破壊するように働きだす。つまり些細であっても持続するストレスは極めて有害なのである。

 

サバンナなどで優雅に暮らしていたマントヒヒを、アフリカでの人口増加のため、保護区に集めて暮らさせたことがあった。そこでは餌の心配はなく、密漁者もいないため快適に暮らせたはずであるが、次々とマントヒヒは死んでいった。脳の解剖の結果、疫病ではなく脳の情報処理系が萎縮し、それが死に至らしめるほどのストレス性の障害を生んでいたことがわかった。

 

マントヒヒのストレスは何であったか? 自分より強い個体に遭遇した時に、広いサバンナでは遠ざかるだけでよかったが、狭い保護区では避けるというやり方は通用しない。いやでも付き合わねばならない。それによるストレスと考えられた。強い個体との血みどろの喧嘩が起こったわけではなく、それほど厳しいとは見えない威嚇を受け続けた結果であったが、そうしたストレスでも逃げられない状況下で受け続けると死に至ることがある。

 

さて、船酔いは3日もすると少しよくなったが、また少ししてぶり返した。そのようなわけで、海に沈む美しいサンセットの絶景を見ても楽しくなく、早く船から降りたいとひたすら思い続けた。こういう時、船尾から流していたルアーにかかったカツオをさばいてうまそうに食べている元気なクルーが妙に憎たらしくすら感じられてきた。

 

そろそろ日本近しという八丈島沖に差しかかった夜、台風並みの低気圧に遭遇した。船足が遅いから、動力船のように逃げることはできない。そのまま低気圧に向かって突撃する。

 

嵐の夜の海は真っ暗で、夜光虫でおぼろげに縁取られた8メートルもありそうな波がかぶさるように襲い、激しい衝撃音が響く。生きた心地はしないが「船酔いです」などと寝てもいられない。私も加わって8人全員の必死の作業によって、セールは破れ、マストは吹き飛んだが、日が昇る頃、無事嵐を乗り切ることができた。そして、ふしぎな仲間意識が出現していた。

 

ベテランたちも、これほど猛烈な嵐は経験がなかったという。何より陸はまだ遠かったが、早く降りたいという意識は消え失せ、皆が、このまま世界一周したい気分になっていた。もちろん、船酔いも失せていた。
 

 

遠山 高史
精神臨床医

 

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※本連載は遠山高史氏の著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

シン・サラリーマンの心療内科

シン・サラリーマンの心療内科

遠山 高史

プレジデント社

コロナは事実上、全世界の人々を人質にとった。人は逃げるに逃げられない。この不安な状況は、ある種の精神病に陥った人々が感じる不安と同質のものである――。 生命の危機、孤立と断絶、経済破綻、そして……。病院に列をな…

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