腸内フローラが「個人の体質・健康状態」を決めるという衝撃【医師が解説】

マイクロバイオータと解毒機能について

腸内フローラが「個人の体質・健康状態」を決めるという衝撃【医師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

工業化学物質や環境汚染物質といった「ゼノバイオティクス(環境毒素)」は、“慢性疾患に繋がる炎症”を起こす大きな一因です。環境毒素を体内に蓄積させないためには、腸内環境を整えること(=腸活)、肝臓のデトックス機能を高めることが重要です。今回は腸内環境に関連する知識として、近年研究が進んでいる「マイクロバイオータ」について詳しく見ていきましょう。※本連載は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師による書下ろしです。

有害金属の代謝

■水銀には「毒性の高い有機水銀」「毒性の低い無機水銀」があるが…

有機汚染物質に加えて、ビスマス、ヒ素、水銀などのさまざまな重金属についても、マイクロバイオータが構造や毒性を変化させることが分かっています。

 

水銀は生体内で高い濃度で蓄積され、人間の健康を脅かします。マイクロバイオータは水銀の毒性や体内代謝に影響を与えることが分かっています(※3)。「魚を摂りすぎると、水銀がたまりやすい」という話は、皆さんどこかで聞かれたことがあるかと思いますが、事実はそれほど単純ではありません。

 

水銀には二つの状態があります。一つは、比較的毒性の低い無機水銀です。無機水銀にメチル基が結合すると有機水銀という毒性の高い物質になります。水俣病はこの有機水銀が原因で起こりました。

 

※3 参考文献

Intestinal Methylation and Demethylation of Mercury

Hong Li 1 2, Xiaoying Lin 1, Jiating Zhao 1, Liwei Cui 1, Liming Wang 1, Yuxi Gao 1, Bai Li 1, Chunying Chen 3, Yu-Feng Li 4

Bull Environ Contam Toxicol . 2019 May;102(5):597-604.

 

■マイクロバイオータの状態によっては「有機水銀が蓄積され続ける」羽目に

ラットのマイクロバイオータを用いた実験では、メチル水銀(CH3Hg+)が脱メチル化され毒性の低い無機水銀になり、宿主からの水銀排泄を促進させることが分かっています。そして、ラットのマイクロバイオータが枯渇すると、メチル水銀が蓄積し、神経症状が引き起こされることが明らかになっています。

 

この有機水銀を脱メチル化して無機水銀に変換する酵素には、有機水銀リアーゼ(MerB)および水銀還元酵素(MerA)などがありますが、ヒトの一部の乳酸菌が産生することが分かっています。

 

食物を経由して腸管に入ってきた毒性の高い有機水銀が、マイクロバイオータが作用することで脱メチル化され、毒性の低い無機水銀になって便中に排泄されるのです。マイクロバイオータが健全な状態では、毒性の高い有機水銀を排泄する機序が働くということです。水銀を脱メチル化するマイクロバイオータが多いほど、水銀が体内に蓄積しにくいということでもあります。

 

逆に、歯科金属であるアマルガムに含まれる無機水銀が溶解し腸管に入ると、別の種のマイクロバイオータの作用により、メチル化されて有機水銀に変換され毒性を示すことがあります。

 

つまり、マイクロバイオータの状態によっては、水銀の排泄機序が正常に働かないばかりか、毒性の低い無機水銀まで有機水銀に変わってしまうことがあるということです。

 

一部の歯科医の中には「アマルガムに含まれる水銀は無機水銀だから安全だ」と主張する人がいますが、腸内環境の状態によっては無機水銀が有機水銀になり、体内に蓄積することがあると知っておく必要があります。

 

マイクロバイオータとゼノバイオティクスとの関係は複雑で個人差も大きく、プラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともあるということです。

次ページ「マイクロバイオータの状態」が疾患予防に繋がる
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