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読み違え2|資源、軍事力、経済力のアンバランスな構造は行動を制約すると考えた
大規模な軍事侵攻となれば、そもそも軍事費の負担は大きくなり、西側から予想される制裁による経済的なコストも大きい。
ロシアの経済力が大規模な軍事侵攻の制約要因として働くとも考えたことがもう1つの読み違えだ。
ロシアは構造的なアンバランスが目立つ国だ。天然ガス埋蔵量では世界第1位、原油埋蔵量では世界第6位*8の資源大国だ。軍事力は米国に次ぐ世界第2位*9、軍事支出額(ドル換算)では米中印に続く第4位*10の軍事大国でもある。
サイバーパワーも高い。ハーバード・ケネディー・スクールのベルファーセンターの研究者による「国家のサイバーパワー指数(NCIP)」のランキングではロシアは米中英に次ぐ第4位*11である。国家のサイバーパワーのランキングは、攻撃力、監視力、防衛力、情報コントロール力、諜報力、商業性、規範性という7つの目標に対する意思と能力に関する指数に基づいて作成されるが、ロシアの能力は、攻撃力が他の目標から抜きん出て高い(図表1)。
2014年のクリミア併合時、軍事力ばかりでなく、インターネットやメディアを通じた偽情報の流布やサイバー攻撃などを含めた「ハイブリッド戦」を展開、今回も大規模侵攻にあたりウクライナにサーバー攻撃を仕掛けた。
ロシアは国家のサイバーパワーの面でも、アンバランスが目立つ。攻撃力の突出のほか、防衛力、監視力、情報コントロール力は意志と能力も高い。しかし、規範性(国際的なサイバー基準や技術的な標準の策定力)では、意思は高いが、能力が低い。商業性(商業的な利益や国内産業の成長力)では意思も能力も低いという偏った構造である。これに対して、第1位の米国の能力は、7つの目標のすべてでバランス良く高い評価を得ている。第2位の中国の能力は、トップの米国と比較すると、規範性と商業性が弱いが、ロシアに比べればバランスが良く、全体に評価も高い(図表2)*12。
このようにロシアは資源が豊富で、軍事力やサイバー戦での能力は高いが、経済的には、米中が競い合い、欧州の27カ国がEUを形成する中にあって、ロシアは大国とは言えず、十分な豊かさも実現していない。GDPで測る経済力は、世界第11位(名目ドル換算、2019年時点)で、米国の7%、中国、27ヵ国からなる欧州連合(EU)の10%程度、日本との比較でも3分の1程度に留まる(図表3)。ロシアの一人あたり所得水準は世界銀行の分類*13では日本を含む主要7ヵ国(G7)などと同じ最上位の「高所得国」ではなく、上から2番目の「高中位所得国」に位置する。
振り返れば、経済力に対して軍事力が強大であることや、攻撃力に偏った国家のサイバー能力は、これらを行使することで国際秩序の変更を迫る選択をする動機となると見るべきだった。
*8:BP Statistical Review of World Energy 2021による(22年3月1日アクセス)。
*9:兵力、陸海空軍力、天然資源、ロジスティクス、財務、地理から評価したGlobal Firepower (GFP)’2022 Military Strength Ranking (GFP 'PwrIndx')による(22年3月1日アクセス)。ウクライナは22位、日本は第5位
*10:SIPRI Military Expenditure Databaseによる(22年3月1日アクセス)ウクライナは34位、日本は第9位
*11:ハーバード・ケネディー・スクールのベルファーセンターのNational Cyber Power Index 2020(NCPI)による(22年3月2日アクセス)。ウクライナは25位、日本は第9位。
*12:前掲のpp.70-71に7つの目標に対する各国のスコアの分布が掲載されている。日本は防御力が高いが、攻撃力、情報コントロール、諜報力は弱い。規範性での意思と能力は、ドイツ、フランスと同じ程度高いと評価されている。また、米中に続く第3位の英国は諜報力の高さに特徴がある。今回のウクライナ問題に関しても早い段階から米国とともに大規模軍事侵攻に注意喚起を発しており、能力の高さが証明された。
13 World Bank Country and Lending Groupsによる(22年3月2日アクセス)。