なぜ専門特化病院はスタッフが成長し、医療レベルが向上するか

二次医療圏で心臓血管治療に専門特化した病院の事例【中編】

なぜ専門特化病院はスタッフが成長し、医療レベルが向上するか
(※画像はイメージです/PIXTA)

所沢ハートセンターは循環器疾患に専門特化し治療に専念しています。桜田真己院長は、「専門特化した病院のメリットは、全スタッフの専門性の高さと24時間夜間でも医療レベルが落ちないところ。」と強調する。それはなぜでしょうか。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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    専門特化した治療を経験できる環境が整う

    (3)専門性を高めるための環境

     

    専門性を高めるための環境として、3つのポイントが伺える。第1は、医師が専門特化した治療を経験できる環境が整っている点、第2は、看護師を含めたスタッフによる自主的かつ積極的な勉強会の実施、第3は、最新鋭の医療機器の導入である。

     

    第1に、谷脇循環器医長は、自分の専門性を高めるために適した環境である点について次のように話す。

     

    「一般的に、病院において若手が自由に自主的に治療に参加できる環境は限られている。一方、所沢ハートセンターは症例数が多く、実際に若手でも治療に参加さえてもらえるため、先輩方の指導の下、多くの経験を積むことができる。ここでは、自分の考えで手技を磨くこともできる。自分の治療レベルを向上させるためには、刺激と競争が必要。経験豊富で優秀な先輩方をみられるから、自分のレベルを上げることができる。思考を学び経験するからこそ発展できる。」

     

    谷脇医師は、臨床だけではなく研究も続けている。スイス・ベルン大学に研究留学した時の元同僚と共同研究を行っている。大学病院や大規模病院でない場合、研究を行うことは難しい。しかし、30床の小規模病院でありながら、高度な臨床を続け、且つ、自由に研究を進められる環境は、モチベーションをあげ専門性を高める要因となっている。

     

    桜田院長は、医療レベルを支える医師が変わりなくいてくれることが何よりも素晴らしい結果を生んでいる。いてくれるだけで安心できると信頼を寄せている。

     

    第2は、看護師を含めたスタッフによる自主的で積極的な勉強会の実施が専門性を高めている。外来主任によると、看護師を含めたスタッフは、桜田院長の理念に従い学びを高めている。

     

    「所沢ハートセンターに来た時は、専門の勉強会が他の病院よりも多いと思った。多い勉強会は、高度な医療を地域に提供する使命を達成するために必要なことであり、スタッフ全員が理解している。理念を理解できるから私たちも努力ができ、多い勉強会でも頑張ろうと思える。」と話す。

     

    これは、診療報酬換算とは無関係に行われており、感染や医療安全、医療機器の勉強会とは別に自主的に開催されている。看護師を含めたスタッフが、病院の医療レベルを上げるために、自分たちがやるべきことをやる、強い意志が伺える。

     

    第3に、医療レベルの向上にとり、医療機器の進化も不可欠である。所沢ハートセンターでは、最新鋭の医療機器を導入している。例えば、超高精細画像による冠動脈CTなど、医療機器の進化は疾患を見逃さないことにつながる。桜田院長は、「従来のCTでは判断がつかないケースがあったが、確信をもって治療方針を決定できる。」と話す。最新鋭医療機器の導入は、医師のモチベーションをアップさせ働きやすい環境も構築し、結果的に、患者のメリットにつながっている。

     

    (4)近隣診療所や救急隊員など外部との連携

     

    外部との連携については、近隣の診療所との信頼関係と救急隊員との信頼関係が挙げられる。患者の多くは、地域の医師からの紹介もしくは患者のクチコミで来院している。例えば、かかりつけ医の役割として、診療所の医師は、患者に専門的な治療が必要だと考えた場合、速やかに専門医を紹介する。紹介する場合は、大学病院や近隣の中核病院、もしくは専門病院を提示するケースが多い。

     

    所沢地域における心臓血管治療について、地域の診療所は所沢ハートセンターの医療レベルの高さを周知している。そのため、循環器疾患の患者に対しては、所沢ハートセンターを紹介すると近隣にある診療所の院長は話していた。医療レベルの高さは周囲の医師からの信頼を獲得し、医療連携による患者の紹介行動につながっている。

     

    地元の救急隊員からの信頼も厚く、心肺停止状態の患者が運び込まれるケースも増えている。桜田院長は救急対応での重要な点として、救急隊員の判断と連携を挙げている。

     

    例えば、救急隊員(救急救命士の場合を含む)は救急現場に駆けつけて、傷病者もしくは家族に対して状況を確認し、適切な処置のうえ、速やかに救急車で病院へ搬送する。搬送先の検討は救急隊員が患者の状況を考えて、どこの病院に搬送することが適切なのかを判断し、各医療機関に連絡をとる。

     

    救急隊員は勉強会など訓練を重ねて鍛えられており、重症度により搬送先を判断している。そのため、所沢における心臓疾患の場合、救急隊員は緊急性を考慮し、所沢ハートセンターに搬送する。現実的に夜中の場合、救急指定病院において循環器専門医が当直しているとは限らない。早急な対応が必要だと救急隊員が考えた時、その優先順位は救急隊員の経験と情報、医療機関との連携により決まってくるのだろう。

     

    杉本ゆかり
    跡見学園女子大学兼任講師
    群馬大学大学院非常勤講師
    現代医療問題研究所所長

     

     

    ※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房、2020年12月刊)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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    杉本 ゆかり

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