(※写真はイメージです/PIXTA)

3人きょうだいの長男の男性は、定年退職後、自分の家族と高齢の母親と一緒に実家で暮らしています。2人の弟は、兄が実家をそのままスライドして引き継ぐことに納得できず、たびたび牽制してきますが、長男も弟たちにはいいたいことがあり…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

「長男に継いでほしいのですよ」と、母親はあっさり…

2度目の面談は、池上さんの母親も同席しました。

 

「長男にはすまないことをしました。学生時代はアルバイト代もほとんど家に入れてくれて、就職してからは弟たちの父親代わりでした。本当に苦労させました」

 

池上さんの母親は、子どもたちの諍いを回避したいとのことから、遺言を書くことを快諾しました。母親が「不動産は長男に相続させる」と遺言しておけば、池上さんはこれまでどおり、自宅に住み続けることができるからです。

 

「ふたりの弟には、保険金や預金を相続してもらえばいいでしょう。池上家を継いで、土地やお墓を守ってくれる長男に相続してほしいのですよ」

 

池上さんの母親は、あっさりいいました。

 

その後、池上さんと母親は公証役場へ出向き、長男に不動産を相続させるとした公正証書遺言書を作成しました。

 

しかし、母親の財産構成は自宅不動産に大きく偏っています。そのため、池上さんが不動産を相続すると、弟たちに保険金や預貯金を等分に分けても、遺留分には少し届かないのです。また、現在の預貯金も、今後母親の医療費や介護費等で減ってしまう可能性があります。

 

そこで、遺言で不動産の所有を決めておけば、遺産分割協議が紛糾して池上さんが住む場所を失うという最悪の事態は回避できます。今後、2人の弟が遺留分侵害請求することも想定し、池上さん自身の現金もしっかり確保しておくことが大切です。

 

相続財産のうち、自宅不動産がいちばん高額となれば、相続人で平等に分割するためには売却するしかありません。しかし、そうすれば自宅に暮らす人は住む場所を失うか、もしくは自宅がほかの相続人との共同財産になってしまうかもしれません。「共有」という言葉から、円満な印象を持つ方もいるかもしれませんが、相続人が親から子へと代替わりすれば、権利を持つ人の数が増える可能性が高く、そうなれば売却しようにも、権利者全員の意見を調整する必要があるなど、事態は一層面倒になります。

 

そうした事態を避けるために、遺言書を用意して遺言執行者を指定しておけば、ほかの相続人の協力なしで不動産の相続手続きが可能になります。母親が自宅を相続させたいと考えている池上さんを遺言執行者に指定すれば、2人の弟の許可も協力も必要なく、池上さんがそのまま自宅を自分の名義とし、そこに暮らせるのです。

 

また、遺言で遺産分配の指定があるなら、遺留分として渡す金額は法定割合の半分になります。そのため、代償金として用意しなければならない現金も少なくてすむのです。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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