(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業家団体が中小企業振興策を自治体に働きかけ、中小企業重視の姿勢を明確にするとともに、各自治体の特性を活かした「中小企業振興基本条例」を制定すべきだと動き始めています。どのような効果があるのでしょうか。清丸惠三郎氏が著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)でレポートします。

若者がいなければ、中小企業は疲弊する

再び話は福岡県中小企業家同友会に戻る。北九州市地区会は会員数およそ200人。数年前から市議会に中小企業基本条例づくりを求めて働きかけてきたが、14年になって突然、議員立法で中小企業振興条例を制定しようとの動きが急浮上してきた。しかも理念型ではなかったため、地区会では市議会各党に「少なくとも理念型に」と働きかけ、どうにか理念型に落ち着いたのだが、同友会の目指す内容とはズレがあることは否めなかった。

 

当時、北九州地区会長だった坂本敏弘福岡同友会副代表理事はこう語る。

 

「条例施行後、中小企業振興協議会が開かれ、私もメンバーとして意見を求められた。そのとき話したのは、地域に若者が残っていない。18歳、あるいは22歳で出ていく。我々も努力するが、市のほうでも協力をお願いしたいということ」

 

もっとも、振興協議会は開かれたとはいうものの年1回にすぎず、メンバーは中小企業団体代表や中小企業経営者、学識経験者だけでなく、大企業経営者も加わっており、そこでの論議をなかなか実効ある中小企業政策に結び付けることはできなかった。

 

そうした中で、坂本氏は粘り強く中小企業が成長することが北九州市にとって大事だという合意を取りまとめていき、「2018年度は、中小企業成長促進モデル事業と言うのがスタートできました」という。まず5社が選ばれ、北九州市が成長支援策を講じるというものである。坂本氏が経営する計測検査もその中に選ばれた。

 

計測検査は、工業都市北九州市に立地する化学工場のプラント設備の非破壊検査と解析を行う会社として、1974年に創業された。その後、鉄道や橋梁、トンネルなど大型構造物にも検査対象を広げるとともに、材料評価や振動測定なども行うようになった。業務エリアは首都圏や中部圏にまで広がっている。

 

最近ではトンネルなどのコンクリート構造物の劣化診断作業を従来より大幅に短縮する「MIMM」検査システムを三菱電機と開発し、関係業界で注目を集めている。現在、従業員は120人。この10年間でほぼ倍増しているというから、先端技術を有する急成長企業と言っていいだろう。

 

「早くから共同求人活動に参加し、地元の高校生を採用してきましたが、最近は大卒中心にシフトし、このところ年4、5人採用しています。北九州の大学生は福岡や東京などの大手企業に入りたがりますが、組織の歯車になりたければそれもいいだろう。逆にうちへ来れば2、3年でいろんなことを経験できますよと言っています」

 

着実に社員を採用できている計測検査はやや特殊な事例かもしれないが、不動産、リフォーム関連の会社を経営する市丸皓士北九州地区会長は、「高校生や大学生のインターンシップ受け入れや、地元高校の先生との懇談会を開くなど、(北九州の)同友会は同友会として若者たちに地元に残ってもらうための努力を続けています」と語る。

 

北九州市の場合、人口が100万人を切ったとはいうものの、九州第2の都市でもあり、進学、就職で出ていく学生も多い一方で、大学などへの進学で入り込んでくる人たちもいる。住環境の優れた地区もあって近郊や遠隔地から移ってくる若い人もいて、政令指定都市の中では合計特殊出生率は高いほうだという。構造は複雑で、対応策もシンプルではない。

 

ただ、若者がいなければ労働力が枯渇し、中小企業は疲弊する。当然地域も衰退する。中小企業振興基本条例制定は、実のところ北九州市だけでなく全国どこの地域にとっても極めて大きな意味を持っている。

 

清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー

 

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※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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