(写真はイメージです/PIXTA)

東京都心部Aクラスビルの空室率は、テレワークの普及など先行き不透明感が広がるなか上昇基調で推移し3%台に達した一方、成約賃料は2014年第4四半期の水準まで下落しました。本記事ではニッセイ基礎研究所の吉田資氏が、今後のオフィス需要を踏まえた東京都心部Aクラスビル市場の動向と見通しについて解説します。※本記事は、ニッセイ基礎研究所のレポートを転載したものです。

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    3.フリーアドレスの導入状況

     

    「働き方改革」の一環として、従業員間のコラボレーションやフレキシブルな働き方の促進を目的として、フリーアドレスを採用する企業はこれまでも一定数存在していた。しかし、コロナ禍で「在宅勤務」が急速に普及しオフィスに出社するワーカー数が流動的となるなか、フリーアドレスを導入する動きが広がっている。

     

    森ビルの「東京23区オフィスニーズに関する調査(2021年)」によると、「フリーアドレスの導入状況」に関して、「既に導入している」との回答は、2019年の19%から32%に増加した[図表13]。

     

    [図表13]フリーアドレスの導入状況

     

    CBRE「オフィス利用に関するテナント意識調査」によれば、ワークプレイスの形態に関して、「現時点(2020年10月時点)」では「全部固定席」との回答が最多(61%)だが、「今後の予定」では27%に低下し、「フリーアドレスと固定席環境が混在するハイブリット型」との回答が22%から34%に増加した[図表14]。

     

    [図表14]現在のワークプレイスの形態と今後の予定

     

    フリーアドレスは、今後想定されるフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態であり、また、従来通りの全て固定席ではスペースの有効活用が難しいとの事情もあろう。

     

    ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、「席余裕率」(中央値)は、「2021年4月時点の実績値」が1.85席/出社人数であるのに対して、「コロナ禍収束後の意向」では1.2席/出社人数に縮小した。

     

    今後、フリーアドレスと固定席が混在するオフィス利用が進むことで、出社人数に対し余裕をもって座席を用意する企業は減少すると考えられる。

     

    4.企業のオフィス環境整備の方針

     

    森ビルの「東京23区オフィスニーズに関する調査(2021年)」によると、「新規賃貸する理由」は、「働き方の変化に応じたワークプレイスの変更のため」との回答が30%で第1位となった。昨年トップであった「賃料の安いビルに移りたい」との回答は37%から29%に低下した[図表15]。

     

    [図表15]新規賃借する理由

     

    企業のオフィス投資では、「オフィス勤務」と「在宅勤務」を組み合わせた新しい働き方への対応に重点が置かれている。

     

    また、コロナ禍前(2019年)と比較して、「立地の良いビル(26%・2019年28%)」や「耐震性能の優れたビル(20%・同18%)」、「セキュリティーの優れたビル(19%・同15%)」、「設備グレードの高いビルに移りたい(18%・同18%)」といった前向きな移転ニーズは変わらず高い。

     

    「働き方改革」を契機に強まった、従業員満足度の向上や優秀な人材確保などを目的とするオフィス環境整備は、コロナ禍を経ても継続している。

     

    一方、「オフィス環境づくりにおける課題」としては、「効率的なレイアウトによるコストダウン」(35%)と「社内のコミュケーションンやコラボレーションの強化」(35%)との回答が最も多く、次いで「社員への健康配慮」(33%)との回答が多かった[図表16]。

     

    [図表16]オフィス環境づくりにおける課題

     

    「在宅勤務」を実際に経験することで、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」としてのオフィスの重要性が再認識されるなか、オープンなミーティングスペースや、web会議用スペースを充実させる企業が増加している。

     

    また、多数の利用者が出入りするオフィスビルでは、感染症拡大防止や利用者の健康に配慮した対応が必須となる。

     

    ザイマックス不動産総合研究所「働き方とワークプレイスに関する首都圏企業調査(2021 年7月)」によれば、コロナ危機後、メインオフィスの施策として関心があるものとして、「健康や感染症対策に配慮したオフィス運用に見直す(衛生管理等)」との回答が約4分の1を占めた。従業員の「Well-being」に配慮したワークプレイスの構築が企業の経営課題の1つとなっている。

     

    日本経済団体連合会「オフィスにおける新型コロナウィルス感染予防対策ガイドライン」では、「従業員が、できる限り2メートルを目安に、一定の距離を保てるよう、人員配置について最大限の見直しを行う」とされており、ソーシャルディスタンスへの配慮が求められている。

     

    今後も、従業員にとって快適なオフィス環境を整備する取組みは継続すると考えられる。特に、従業員間のコミュニケーション促進や「Well-being」への配慮は重視されるだろう。したがって、利用効率性のみが追求され、オフィス床面積(1席あたりオフィス面積)が大幅に縮小する懸念は小さいと考えられる。

     

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    ※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    ※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年2月21日に公開したレポートを転載したものです。

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