※写真はイメージです/PIXTA

税理士の三反田純一郎氏は、2025年の大廃業問題の本質は「会社の資産形成不足」にあると指摘します。しかし多くの中小企業経営者は、資産形成不足に対する危機感や現状認識が欠けているというのが現状です。なぜ、これほどまでに資産形成に踏み切れない経営者が多いのか? いったい何が、資産形成に着手する動機付けを阻んでいるのか? 筆者が立てた仮説のうち、今回は「日本人に個人レベルで染み付いた投資に対する強い固定観念やこの20年のなだらかな経済環境が、動機付けする機会を奪ったのではないか?」という説に着目し、考えていきましょう。

20年間の「家計金融資産の推移」…日米でこれほどの差

■「日本人の資産」は約1.5倍増だが、「アメリカ人の資産」は3倍以上

日本が動機付けすらできずに停滞していた間に、資産形成に正面から向き合った海外との差は驚くほどに開いてしまいました。

 

投資による資産形成の成果に目を向けると、この20年でアメリカ人は家計における金融資産を3倍以上にしたのに対して、日本人は約1.5倍となっていて、思ったように増やせずに低迷しています。アメリカだけが特別なのでしょうか?

 

そうではありません。イギリスも2倍以上となっていることから、日本だけが増やせていないことがわかります(図表3)。

 

(出所)金融庁レポート
[図表3]金融資産増加の国際比較 (出所)金融庁レポート

 

■アメリカ人、イギリス人の資産が増えたワケ

ここまでの差が広がったのは、アメリカ人が資産形成において何か特別なことをしていたからでしょうか?

 

確かに日本と違い、海外の人々は家庭や学校で金融リテラシーを身に付けて、リスクとリターンのバランスをとる必要性を理解していたようです。

 

実際、アメリカ人やイギリス人は世界経済の成長に資産を委ねる発想で投信信託をメインにお金を働かせた結果、図表3のような成果を出せたのです。

 

彼らは以下の投資の本質を理解していたということです。

 

リスクとリターンのバランスについて…投資信託で広く世界経済に投資している。

お金を働かせるについて…元金でなくリターンで増やせている。

 

海外の人々がリターンの重要性にも気づいていたことは図表4でもわかります。お金を働かせるという発想で、リスクを取った投資をしているかどうか、が日本と海外の大きな差を生んだのです。

 

(出所)金融庁レポート
[図表4]海外はストック収入(リターン)で増やせている (出所)金融庁レポート

 

しかも彼らは単純にお金を殖やすことばかりを考えているわけではなさそうです。というのも海外ではさらにもう一歩進んで、リスクを徹底的に抑えて安全に殖やすことを目的とした「ドルコスト平均法による積立投資」という投資手法が広く普及しており、資産形成を安全かつ、確実に行うというステージに歩みを進めています。

適温経済環境が奪った変わる機会

それでは経営者はなぜ変われなかったのでしょうか? 日本の国民全員まで変われないとしても、経営者くらいは失われた20年の中で変わるきっかけはなかったのでしょうか?

 

その答えのヒントは日本の近年の経済環境にあります。リーマンショック(2008年頃)の影響は小さくなかったものの、リーマンショック以降の安倍政権によるアベノミクスの政策効果により、景気動向指数から見たいわゆる景気の山は2018年10月までは続いていたということが2020年夏頃発表され話題になりました。つまり日本は2010年代は景気は良かったということなのです。

 

また、長らくデフレ経済に苦しんできた日本経済は、2013年より日本銀行が「物価安定の目標」というインフレ目標政策に舵を切ることになり、目標の2%には到達していないもののデフレ基調には一定の歯止めがかかっています。

 

 

この適温経済環境が続いた結果、本来はもっと早く変わらないといけなかった中小企業の経営者の資産形成に対する考え方が、変わる動機付けをされないまま、残念ながら現在に至ったと考えられます。その結果、勉強熱心な経営者ですら、あるべき価値向上のマインドセットができていなかったため、動機付けや現状分析に及びませんでした。

 

こうして日本は世界でも有数の金融資産を持つ優位性を活かすこともないまま、資産形成の後進国と成り下がったのです。

 

 

三反田 純一郎

税理士

宅地建物取引士

 

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