
資産運用において、従来は「高齢者はリスクを取るべきではない」という考えが常識とされてきました。しかし、現在の日本で老後を不安なく過ごすためには、従来の常識にとらわれた資産形成術では心もとないといえます。どのような点に注意を向け、資産形成・資産防衛を考えるべきか、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
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「若者と違い、高齢者はリスクが取れない」というが…
資産運用については、「若者はリスクをとってもいいが、高齢者はリスクをとるべきではない」と、しばしばいわれます。「若者は投資で失敗しても、その後の人生でしっかり働いて節約すれば取り戻せるが、高齢者が大切な老後資金を減らすと取り返しがつかない」という理由のようです。
しかし、筆者はそうは考えません。株式や外貨には値下がりリスクがありますが、預金にはインフレによる目減りのリスクがあります。預金は安全資産だといわれますが、インフレが来たら預金で買える物(財およびサービス、以下同様)の量が減ってしまいますから(目減り)、老後資金が不足してしまう可能性があるのです。
株式も外貨も預金もリスク資産なのであれば、それらをバランスよく持つべきだ、というのが筆者の考え方で、年齢によって差はない、というのが基本でしょう。
株式や外貨はインフレに強いということが、預金と両方持つことのメリットとして挙げられます。インフレで預金が目減りしたときに株や外貨が値上がりしている可能性が高いのであれば、「預金も目減りして株も外貨も値下がりする」といった最悪の可能性は低いといえますから。
インフレになると企業の売上もコストも利益も配当も増えるので、株価には上昇圧力がかかります。日本でインフレが来ると米国のほうが日本より物価が安くなるので、日本人が銀行でドルを買って米国から物を輸入するようになり、彼らのドル買いがドルの値段を押し上げるのです。
生活に必要な資金等々を除くと、若者の金融資産はそれほど多くないでしょうが、退職金をもらった高齢者は結構な額の金融資産を持っているわけで、金融資産に占める株や外貨の比率がある程度高くなってもいい、という考え方もあるでしょう。
インフレリスクを恐れるべきは、若者より「高齢者」
インフレが来て預金が目減りするリスクを恐れるべきなのは、高齢者です。老後のために蓄えた預金が目減りしてしまえば、悲惨な老後を過ごすことになりかねないからです。
公的年金については、原則としてインフレ分だけ毎回の支給額が増えますから、高齢者もインフレの心配をしなくていいのでしょうが、老後の蓄えが銀行預金になっている部分については心配ですね。
一方で若者は、インフレが来れば過去に蓄えた預金は目減りしてしまうでしょうが、給料も増えますから、残された現役時代に高い給料をもらって節約すれば、退職までに多額の金融資産を持つことも可能でしょう。
そうであれば、高齢者こそインフレに強い資産である株や外貨を多めに持ち、インフレで目減りしかねない銀行預金は少なめに持つべきだ、という考え方もできると思います。
冒頭の言葉を裏返していえば、若者はインフレが来て預金が目減りしても、そのあとの人生でしっかり働いてしっかり節約すれば取り戻せるけれども、高齢者は大切な老後資金がインフレで目減りしてしまったら取り返しがつかないから、ということになるわけです。