
多くのサラリーマンにとって、退職金はこれまでに最大の収入でしょう。しかし「退職金=長年の勤務のごほうび」と認識してしまうと、老後生活は一気に不安定になります。景気よく散財したり、金融機関で丁重な扱いを受けてご機嫌になったりすることで、大金がいつの間にか〈雲散霧消〉してしまうかもしれません。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
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「退職金=ごほうび」の思考こそ、無用な散財の根源
退職金は、多くのサラリーマン(男女を問わず、公務員等を含む。以下同様)にとって、いままでで最大の収入でしょう。「長年会社のために身を粉にして働いたことに対し、会社がごほうびをくれたのだ」と喜ぶ人も多いはずです。しかし、その考えは危険です。
ごほうびをもらったと考えると「頑張った自分へのごほうびとして、これまで家事育児を担って自分を支えてくれた配偶者への感謝の気持ちを込めて、夫婦で世界一周旅行をしよう!」などと夢が広がりかねません。
しかし、退職金は老後のための重要な生活資金なのですから、退職直後に散財してしまっていいわけがありません。もちろん、夫婦で温泉旅行に行くといった程度の贅沢ならいいでしょうが、悲惨な老後とならないよう、十分慎重に判断したいものです。
そもそも退職金はほうびなどではなく、給料の一部を後払いされたものなのです。老後のために会社が預かっていてくれた、という意味もあるかもしれませんが、戦後の銀行融資が受けにくかった時期に、会社が従業員から強制的に給料の一部を預かった、といった側面もあったのでしょう。
悪事を働いて懲戒解雇されると退職金がもらえない、という抑止力を狙った面もあったのかもしれませんね(笑)。
「なんだか金持ちな気分」になってきたら危険信号
退職金が振り込まれると、銀行口座の残高が一気に急増します。自分が急に金持ちになったような気がするかもしれません。「多額の資金が入ったから、少し投資でもしてみようかな」という気になるかもしれません。
そんなときに銀行の支店長が支店長室で丁寧に応対してくれて、多額の投資信託の購入を促されたらどうでしょう。舞い上がってしまい、あるいは、断るのが申し訳ないような気になってしまい、いわれるまま多額の投資信託を購入してしまうかもしれませんね。
銀行預金の一部を使って投資信託を買うということ自体は、決して悪いことではありません。むしろ筆者は、預金がインフレに弱いリスク資産であることを考えて、積極的に株式投信を買うことを勧めています。
しかし、投資信託を慎重に選ぶのではなく、いわれるままに買うというのは避けたいところです。なにより、それ以上に避けたいのは、一度に大量の株式投信を買うことです。
老後資金の基本は分散投資です。投資信託であれば、多くの銘柄を買ったのと同様の効果が得られますから、銘柄分散のほうは問題ないのですが、一度に大量に買ってしまうと、時間分散がはかれません。
退職時が偶然に株価の安い時期であればいいのですが、運悪く退職時が株価の高い時期であったとすると、せっかくの退職金が大きく減ってしまいかねません。
株式投信を毎月少額ずつ購入する「積立投資」なら、高いときも安いときも投資をすることになるので、平均的な値段で大量の投資信託を購入することができます。大儲けは狙えませんが、大損のリスクも減らせます。大切な老後資金の運用ですから、運に任せるのではなく、「酷い目に遭わないようにする」ことを最優先したいものです。