
日本人の資産構成はいまだに銀行預金が圧倒的であり、欧米に比較すると株式や外貨の保有率はわずかです。資産を多く保有する保守的な高齢者たちが、元本保証の銀行預金に最も信頼を置いている結果だと推察できます。しかし、銀行預金はインフレに弱い「リスク資産」であるという事実をしっかり認識しなければなりません。元メガバンカーの経済評論家、塚崎公義氏がインフレリスクについて解説します。
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日本人の金融資産が「銀行預金に偏っている」ワケ
欧米と比較すると、日本人は金融資産、銀行預金の比率が圧倒的に高く、株式等の比率は低くなっています。一因は、金融資産を持っているのが主に高齢者だということでしょう。
高齢者は保守的で株式投資のリスクを嫌う人が多いでしょうし、彼らが若かったころは「株に手を出す」などという言葉があったように「株式投資はバクチであり、真っ当な人間が行うべきものではない」といった考え方の人が多かったため、その影響が残っているのかもしれません。
若い人は株式投資へのアレルギーが少ないと思われますが、それでも日本人は保守的なので、株価暴落リスクを考えると、預金のほうが安心だと思う人は多いでしょう。
銀行が倒産する可能性は小さいかもしれませんし、万が一銀行が倒産しても、預金保険制度によって1000万円までの預金は政府が代わりに払い戻してくれますから、預金してある金は安全だ、と考えている人が多いのだといえます。
「物価が2倍=買えるものが半分」という理屈
しかし銀行預金も、インフレが来ると目減りしてしまう「リスク資産」なのです。インフレが来て物価が2倍になれば、同じ金額の預金でも買える物が半分になってしまいます。銀行預金の「目減り」です。それでは老後の生活に支障を来たしかねません。
日本では、過去数十年にわたってインフレが起きていませんから、インフレは2度と来ないのではないかと考えている人もいるでしょうが、筆者はそうは思いません。「労働力不足によるインフレ」と「大災害によるインフレ」を心配しているからです。
労働力不足により「マイルドなインフレ」が続く可能性
少子高齢化による労働力不足の時代が迫っています。現役世代の人数が減るのに高齢者の人数が減らず、作る人と使う人の比率が変化するからです。加えて、高齢者の消費は医療や介護といった労働集約的な物(財およびサービス、以下同様)が多いことも、労働力不足をもたらすからです。
新型コロナ不況が来る前もすでに労働力不足で、非正規労働者の賃金が上昇し、消費者物価もわずかながら上昇していました。今後についても、長期間にわたるマイルドなインフレが続く可能性が高いかもしれません。
毎年1%ずつ物価が上がっていくと、銀行預金の金利はゼロのままなのに、30年後には買える物の量が30%減ってしまいます。