(※画像はイメージです/PIXTA)

終電の電車のなか、中年男性に席を譲ろうとした女性、断った中年、その席を奪った青年…。若い男女の立ち居振る舞いが、今時の若者の危うさを物語っているように思えてならないと指摘する精神科医が著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)で解説します。。

カルテの電子化が面倒な仕事を作る

いまや病院は電子カルテばやりである。しかし、画像や数値データだけではなく、生身の人間についての表現が必要な精神医療には、紙カルテのほうが向いている。

 

かつて自治体病院の病院長であった頃、電子化せよとのお達しがあり、同列の病院はすべて電子カルテを採用したが、私一人反対した。理由は、精神科の治療には、患者との関係を軸にして、相互に働きかけながら、より良い方向に「ともに進む」といった治療構造が欠かせないからだ。

 

カウンセリングや精神分析も同じで、いわば患者と治療者は、螺旋運動をしながら、ともに進んでいく。これには紙を使った診療のほうが優れている。

 

電子カルテが出始めた頃、医師はディスプレイばかり見て、患者の顔を診ないとよく言われたものだが、技術が進んだ今でも、医師は検査データばかり注視する傾向が強い。入力に気を取られ、目の前の患者とのやり取りが二の次になりやすい。

 

不思議と、紙カルテではそれが起きにくい。紙に書く時は、患者について写真や録音機のように記録することはむしろ難しく、治療者の投げかけに対して患者が示す表情や振る舞いをベースに、脳が情報処理をし、要点を手で紙に書きつける。

 

しかし、電子カルテでは、ディスプレイを見ながら、事前の情報処理を行うことなく、そのまま打ち込むことが多い。医師もまるで自分がパソコンになったかのように一方的に患者に断言したりして、相互の螺旋的関係が生じにくくなるのだ。

 

さらに、電子カルテの入力情報は、重みづけがなく網羅的で、重要な情報を探し出すのに長い時間を要する。私は現在、「病院実地指導」なる仕事を請け負っているが、紙カルテを使っている病院では、必要な情報が、短時間で容易に拾い出せるので指導がしやすい。これが電子カルテとなると、相当長い時間をかけてディスプレイの中を彷徨い続けなければならないのである。

 

ほとんど不要と思える情報や、同じような情報の繰り返しが溢れ、職員に聞いても、自分の書き込んだ情報以外のことはわからないため、簡単には答えが出てこない。昨今、どこかの省庁が「探したけれどありません」と言っておきながら、後で探したら出てきましたというのも、電子化のせいではなかろうか。そんな気がする。

 

生身の人間を表現するのに、まだITは十分な役割を果たせそうにない。大量処理や決まった目的の処理、破壊という直線的な作業を行う兵器などには向くが、自然という変化する流動的な事象には、結局大味な答えしか出せない。スーパーコンピューターを駆使した天気予報がピンポイントで当たらないのも、自然の予測不能性を把握しきれないからである。

 

私は予測不能な自然も、自然が生んだ生き物も、螺旋的な経過を辿ると信じている。ダーウィンは、植物が螺旋運動をすることを発見した。DNAも螺旋であり、最も美しいといわれるフィボナッチ数列も螺旋を表現している。螺旋こそが生成のための基本原理であり最高の効率を示すからに違いない。

 

ところが、ITは螺旋を十分に取り扱えないばかりか、多くの無駄を生み出している。私のクリニックも医事会計はIT処理が法制化されており、仕方なく、たくさんのパソコンを買うことになったが、間もなく大型のシュレッダーも買わざるを得なくなった。

 

遠山 高史
精神臨床医

 

 

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※本連載は遠山高史氏の著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

シン・サラリーマンの心療内科

シン・サラリーマンの心療内科

遠山 高史

プレジデント社

コロナは事実上、全世界の人々を人質にとった。人は逃げるに逃げられない。この不安な状況は、ある種の精神病に陥った人々が感じる不安と同質のものである――。 生命の危機、孤立と断絶、経済破綻、そして……。病院に列をな…

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