(※写真はイメージです/PIXTA)

「生活保護受給者で要介護3以上の入居者が欲しい」――。多くの低価格帯の老人ホーム運営業者はこう本音をもらします。それはなぜでしょうか。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で、老人ホームが歓迎する入居者の条件を解説します。

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    歓迎される理由は「うるさい家族がいないから」

    多くの低価格帯の老人ホーム運営事業者は、こう言っています。「生活保護受給者で要介護3以上の入居者が欲しい」と。

     

    この理由は何なのでしょうか。生活保護受給者の場合、本人負担がありません。

     

    100%公費です。したがって、介護保険報酬の本人負担分の未回収が発生しないという利点があります。ちなみに、多くの介護保険事業者の場合、数%程度は、何らかの理由で、介護保険報酬が未回収になっているのが普通です。故意、過失にかかわらずですが……。

     

    しかし、一番のメリットは何かというと、「うるさい家族がいないから」ということなのです。そもそも、本人に対し積極的にかかわる家族がいれば、生活保護受給者にはならなかった可能性があります。したがって、生活保護受給者の家族は、うるさいことを言わない、という理解をしています。この一点に着目して、低価格帯の老人ホーム運営事業者は、生活保護受給者が良い、という結論に至っているのです。

     

    もちろん、家族の代わりに、行政がついているではないか! という理屈も成り立ちますが、行政は仕事としてかかわるため、明らかな虐待などがなければ、別に必要以上に関与することはありません。そこが、家族との圧倒的な違いです。家族は、本人の今までの生活履歴や慣習などから、「きっと、本人はこうしてほしいと思っているのでお願いします」的なリクエストを、ホーム側に要求します。

     

    そして、そのリクエストが実施されているかも確認します。さらに、実施していないことがわかれば「あれだけ熱心に私はお願いしたじゃないですか。あなたも、わかりましたと言ってくれましたよね。なんでやってくれないのですか?」と言ってくるのが普通です。

     

    これと同じことを、行政はしません。というよりも、できません。だから、多少、家賃などが定価よりも減額になってしまう生活保護受給者ではありますが、その分、要介護3以上であれば、相応の介護保険報酬を見込めるので、「歓迎」なのです。

     

    さらに付け加えると、同じ生活保護受給者で、要支援など介護認定度合いが低い高齢者の場合、入居できる老人ホームは壊滅的に少ない、ということを言っておきます。理由はもう、おわかりですね。要支援など介護認定度合いが低い高齢者の介護保険報酬は少ないからです。

     

    冷静に考えれば当たり前の話ですが、事業者側の立場で考えた場合、1カ月30万円の介護保険報酬をもたらしてくれる高齢者と5万円の介護保険報酬しかもたらしてくれない高齢者とでは、どちらが良い高齢者なのかは考える余地もありません。報酬の多寡、すなわち算数の問題です。

     

    株式会社などの営利目的の企業が、介護事業者として仕事をしています。したがって、そこには、効率的に賢く利益を上げていくことが求められているわけです。だとすると、このようなことを事業者が考えるということは、当たり前の話です。非難されるべき話ではありません。

     

    これらの現象を仕組みで解決させるのが、介護保険制度を作り、運用している国の仕事です。そのうち国は、介護保険法を改定し、「軽症の生活保護受給者の対応をこのくらいしていない事業者の介護保険報酬は減算します」ということにすれば、事業者はお金のために対応するはずです。そうなっていくような気がします。

     

    何度も言います。「介護の沙汰も金次第」です。介護事業は、福祉ではなく、立派な産業、経済活動に成長しました。ここを勘違いしないようにしなければなりません。

     

    小嶋 勝利
    株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

     

     

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      ※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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