(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカの中古車卸市場のオークション会場で目撃した光景がベンチャー誕生の瞬間だった。ディーラーたちは躊躇することなく中古車を落札していった。一般の購入者はこうはいかない。それはなぜか。ダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で解説します。

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    ⑩「背教者」型

    ■消費者の問いかけ「この商品がほしいけれど、もっと買いやすくしてくれるのは誰?」

     

    2012年、アリゾナ州フェニックスの中古車卸市場のオークションに参加していたアーニー・ガルシア3世に、あるアイデアがひらめいた。実に単純なアイデアだったのだが、これが後に業界全体をひっくり返すほどの力を持つことになる。ガルシアは、自動車業界とつながりの深い自動車一家に育った。とりわけ、父親のアーネスト・ガルシア2世は、中古車・金融関係の事業で生計を立てていた。

     

    さて、運命の日、息子のほうのガルシアが、中古車オークション会場で様子を見ていると、どのディーラーも車の状態を記した総合的なスペックシートにほんの数秒目を通すだけで、買うかどうかを判断していることに気づいた。そして何の迷いもなく現金をポンと出して、車のキーを手にしていたのである。

     

    一方、消費者は、いい中古車を見つけるために、何日も、いや何週間も費やし、ときには何度もディーラーに足を運んだ末にお目当ての車を手に入れている。両者の大きな違いと言えば、オークション会場で見たディーラーには、保証制度があることだった。車に隠れた問題があれば、購入後7日間は返品して全額返金を受けられる仕組みだったのだ。たったそれだけとはいえ、十分に大きな違いだからこそ、試乗さえせずに安心して仕入れることができるのだ。

     

    「だったら、消費者向けの自動車販売でも同じ条件をつければいいじゃないか」

     

    ガルシアはそう思った。中古車購入者が写真や車両状態のレポートを見て購入を決めたら、7日間乗ってみて問題ないかどうか最終的に判断してはどうか。それに、この一連の購入の流れが単に便利なだけでなく、ワクワクするようなものにしたら、自動車購入のあり方が革命的に変わるかもしれないとガルシアは考えた。そして誕生したのが、カーバナだ。

     

    それからわずか5年後の2017年4月、カーバナはIPO(新規株式公開)を果たした。同年の12月には株価が46%も急騰した。現在、カーバナの時価総額は300億ドルを突破し、年間売上高は前年比で2倍以上の39億4000万ドルに達した。

     

    カーバナは、この業界のしきたりを破り、いわば“背教者”として自動車販売のあり方を永遠に変えてみせたのである。

     

    「背教者」型のブランドは、常識を覆すようなイノベーションを見つけ出し、市場に昔からいる既存企業に挑戦状を叩きつける。場合によっては、産業界全体を敵に回すこともある。そのようなイノベーションは、業界の価格と価値のバランスや顧客の体験をがらりと変えるほどの威力がある。

     

    こうしたブランドは、テクノロジー、人材、サプライチェーンの効率化や、システム思考を生かし、狙いをつけたカテゴリーでの顧客の体験をまったく違うものに変えてしまう。そうやって、業界の現状を根本から変えることも少なくない。また、既存企業の商品に近いか同等の商品を提供しつつ、顧客がはるかに充実した体験を味わえるようにしようと考える傾向も見られる。

     

    「背教者」型ブランドは、エネルギー、リソース、ITを余すところなく投入して現状打破の戦いに挑み、カテゴリー内での現行の顧客体験につきものの欠点をクローズアップし、もっと充実した独自の代替案を大々的に提示する。「背教者」型のブランドは、商品や体験を軸に差別化を図り、あらゆるタッチポイント(顧客との接点)で、独自の効率的な方法や内容を強化した方法を生かして補完する。

     

    ダグ・スティーブンス
    小売コンサルタント

     

     

    ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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