(画像はイメージです/PIXTA)

資産家の父が保有していた賃貸マンションは、月額300万円、年間3600万円もの賃料が入ります。相続人であるきょうだいは、まだ遺産分割協議をすませていません。では、所有者が決定する前の賃料は、一体だれのものになるのでしょうか。長年にわたり相続案件を幅広く扱ってきた、高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が実例をもとに解説します。

被相続人亡きあとに発生した賃料は、遺産ではない

まず、被相続人が亡くなったあとに発生した賃料は、遺産ではありません。遺産というのは、被相続人が亡くなった時点で被相続人が持っている財産のことだからです。

 

そうなると、被相続人が亡くなったあとに発生した賃料は、だれのものなのでしょうか。

 

この点、民法909条は、「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる」と定めています。

 

ということは、遺産分割で、貸しマンションを取得した人が、相続時にさかのぼって貸しマンションを取得することとなり、相続開始後遺産分割が成立するまでの賃料も全部取得することとなるようにもみえます。

 

しかし、この点について、最高裁判決は、「相続開始から遺産分割までの間に遺産である不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産であり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は後にされた遺産分割の影響を受けない」としています。

遺産分割成立までの賃料は、各相続人に請求権がある

少々わかりにくいと思いますので、説明します。

 

この最高裁判例は、まず、相続開始後遺産分割成立までに発生した賃料は遺産ではなく、賃料発生と同時に法定相続分に従って、各相続人が単独で確定的に取得するとしています。

 

本件でいうと、毎月の賃料300万円は、相続人である太郎さんと花子さんが2分の1ずつ、すなわち150万円ずつ取得することとなるといっているのです。

 

そして、この最高裁判例は、あとで遺産分割が成立したとしても、その影響を受けないとしています。

 

すなわち、遺産分割で、貸しマンションを太郎さんが全部取得することとなったとしても、あるいは花子さんが全部取得することとなったとしても、影響を受けず、遺産分割成立までの賃料は、2分の1ずつ取得することとなるということなのです。

 

選択肢①は、太一さんが亡くなった後遺産分割成立までの賃料は遺産ではないという点は合っていますが、花子さんが取得できないという点で誤りです。

 

選択肢②は、太一さんが亡くなった後遺産分割成立までの賃料は、貸しマンションを取得した人が取得するということなので、判例とは異なっていることから誤りです。

 

よって、太一さんが亡くなった後遺産分割成立までの賃料は遺産ではなく、賃料発生時点で、法定相続分に従い、各相続人が取得するとしている選択肢③が正解となります。

 

賃料は、賃料発生時点で、各相続人が法定相続分に従って取得することとなることから、賃借人、あるいは管理している相続人、管理会社に対し、遺産分割が解決する前でも請求することができます。

 

本件でいうと、太郎さんが貸しマンションを管理し、全部の賃料を受け取っていることから、花子さんは、太郎さんに対し、毎月、賃料の2分の1である150万円を請求することができることとなります。

 

太郎さんが任意に支払わない場合は、遺産分割調停や遺産分割審判とは別に、不当利得返還請求として、地方裁判所に訴訟を起こす必要があります。

 

また、賃料の請求の訴訟は、遺産分割調停や審判と平行してすることができます。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

 

【関連記事】

税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ

 

親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

 

「儲かるなら自分がやれば?」と投資セミナーで質問すると

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧