相容れない介護福祉士と看護師
ケアマネ試験の受験資格は、一定の国家資格を取得したうえで、5年以上の実務経験を積むことで得られます。この国家資格は21種ありますが、じっさいにケアマネになる人がもつ資格は限られます。介護福祉士、看護師、社会福祉士、精神保健福祉士です。その割合は先にも説明したとおり、介護福祉士6割、看護師2割、残る2割が社会福祉士と精神保健福祉士。この出身資格によって、ケアの考え方が異なる傾向があるそうなのです。
ベテランケアマネはこの一件について、こう語ります。
「もっとも異なる傾向が見られるのは、介護福祉士と看護師です。介護福祉士出身者は介護施設などでの実務経験を積んでいることもあって、利用者の生活を重視する傾向があります。いっぽう、看護師出身者は医療従事者の視点でケアを考えます。
ケアプランにしても、介護福祉士出身者は課題解決型のケアに重きを置く。ホームヘルパーによる身体介護や掃除、洗濯、買い物といった生活援助、体を洗ってスッキリしてもらう訪問入浴などです。
そして、看護師出身者は自立支援型のケアを重視します。体調や病状のチェックを重んじるため、訪問看護師を入れたがりますし、機能回復のためのリハビリ、大勢の人のなかで刺激を受けることで回復につなげるデイサービスを組みこむ傾向があるわけです。
わかりやすく表現すれば、介護福祉士出身者は利用者さんをできるだけラクに快適にする方向性をもっているのに対し、看護師出身者は少々つらさをともなっても利用者の状態を良くしようとするのです。深川さんと中西所長の食い違いがまさにそう。介護福祉士出身の深川さんは利用者さんが大好きなコーラを飲むことを容認し、喜びを与えました。でも、看護師出身の中西所長は、医療的見地からそれが許せなかったわけです」
深川さんは、こう語ります。
「所長にいわれた以上、従うしかありませんから、コーラを飲むことは禁止になりました。数少ない楽しみを奪われた利用者さんは、笑顔を見せることが少なくなったような気がします。もちろん医療的裏づけがあるケアは大事です。でも、利用者さんに喜んでもらうことが元気につながることもあると思うんです」
医療的ケアを重視する中西所長のもとでは、自分らしいケアができないと感じた深川さんは、ほかの事業所に移ることを考えるようになったそうです。