健康診断ではA判定も…日本人女性に多い「隠れ貧血」
鉄についての医学教育で不十分な点はもうひとつあります。潜在性鉄欠乏症(Iron Depletion Without Anemia;IDWA)の概念です。「隠れ貧血」などと呼ばれることもあります。「鉄欠乏」と聞いて多くの一般の方が思い浮かべる病状は「貧血」だと思います。
貧血の原因はいくつかありますが、そのほとんどは鉄不足が原因でヘモグロビン(Hb)という血液の赤い色素が減少してしまう「鉄欠乏性貧血」です。「鉄が不足すると貧血になる」という理屈ですが、逆は真ならずで「貧血でなければ鉄は足りている」とはいえないのです。
すなわち健康診断で貧血を指摘されずA判定が付いたにもかかわらず、実は重度の鉄欠乏という女性が少なくないのです。少なくないというよりもむしろ、そのような隠れ貧血女性の方こそ明らかに数が多いのです。
この気付かれにくい潜在性鉄欠乏症を簡単にみつけるためには「フェリチン」という体内の貯蔵鉄を示すタンパク量を血液で測定することが有効です。しかしあまり有効活用されていないのが実情であります。
すなわち日本の医学教育は「鉄が不足している」という根本的な栄養問題よりも、「貧血である」という表面的な病的事象に重きを置いてきたのです。
そのため、これまで女性の鉄欠乏を感度よくチェックできなかったばかりか、鉄欠乏と不妊の関係性に着目することさえできずに来てしまいました。医学界がこの状態では、政府が不妊増加・少子化の要因を見出せないのも無理はありません。
カップルに対する社会的・経済的援助一辺倒の少子化対策に終始し的を外してきた結果、我が国はいつの間にか「不妊大国」となってしまったのです。
早急にこの点を顧み、適齢期女性の鉄補給対策を適切に講じる必要があります。それが少子化の歯止めにつながると期待されます。
袴田 拓
新百合ヶ丘総合病院 予防医学センター
消化器内科部門部長
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