※画像はイメージです/PIXTA

高齢化の進展にともない、認知症患者も増加。それに伴い、相続についても様々な問題が取り沙汰されています。認知症と相続に関するリスクについて、どのように備えていくべきか。相続・事業承継専門の税理士法人ブライト相続の山田浩史税理士が解説していきます。

「認知症」と「遺産分割」の関係

相続が発生した場合において、相続人が複数人いて、かつ遺言書がないときは遺産分割協議を行うことになりますが、遺産分割協議も契約にあたりますので、認知症など意思能力がない人が単独で協議に参加することはできません。

 

そのため、成年後見人が代理人となって協議に参加することのほかに有効に遺産分割協議を成立させる術がありません。

 

また、相続人に配偶者がいる場合には、実務においては配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの相続税の優遇措置や二次相続税を考慮した有利な分割案を検討し提案しますが、認知症ではこれが行えず、認知症の人に法定相続分を確保する分割方法を取らざるを得ません。

 

なお、成年後見制度は、その目的が前述の通り被後見人の財産を守ることであり遺産分割協議を成立させること(のみ)ではないため、遺産分割協議が成立した後は制度の利用を取りやめる、ということができません。

 

そのため、司法書士などの専門家が後見人になる場合には“よく知らない人に財産を預けること”、被後見人が存命中はずっと後見人への報酬が発生することなどを嫌って制度利用をためらう家族も少なくありません。

 

相続税の申告にあたって後見人を立てないとなると、未分割申告を行うことになります。

 

これは遺産を法定相続分(相続人が配偶者と子であれば1/2ずつ)で分割取得したものと仮定してひとまず申告納税を行う手続きですが、以下のようなデメリットがあるので注意が必要です。

 

①配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの優遇措置が受けられないため多めの税金を払うことになります。

 

※申告期限後3年以内に遺産分割がまとまれば特例を適用することにより過払いの税金を取り戻すことが可能ですが、認知症の相続人が存命かつ後見人を立てない状況が続く限りその機会を逸することになります。

 

②遺産分割が成立していないのですべての遺産が共有になり、預貯金の解約ができない、不動産の売却ができないなど資産が塩漬けの状態になります。

 

また、賃貸不動産や同族会社の株式がある場合には各事業経営が長期的に不安定となり、それらから発生する収入は法定相続分により各相続人が取得しそれぞれ確定申告を行う必要があるため、医療費の負担割合や社会保険料に影響を及ぼすことになります。

 

以上を踏まえ、将来の相続人の中に認知症の人がいる場合には特に遺言書の作成が強く求められると考えられます(認知症の人に既に後見人が付いている場合には、後見人による遺留分侵害額請求の可能性に注意が必要です)。

 

まとめ

認知症の診断を受けるとただちに対策が何もできなくなるというわけではありませんが、対策実行によるメリットはのちの大きなトラブルと背中合わせになることを認識しなければなりません。

 

そのため、今回記載してきたすべての対策等について共通して言えることは「兎にも角にも認知症になる前の早めの準備が必要」ということです。

 

日本における65歳以上の高齢者の人口比率は2021年9月現在において29.1%であり、これは世界1位の割合です。

 

認知症の最大の要因は加齢であるといわれ、まさに冒頭に述べた5人に1人以上が発症するような認知症がより他人事ではなく身近なものになりつつある時代です。

 

認知症はもちろん、将来の相続の問題は財産の多寡等にかかわらず誰にでもあり得るものですので、必要に応じて専門家の知恵も借りながらまずはやるべきことの洗い出しから始めてみる、又は親などにそれを勧めてみてはいかがでしょうか。

 

 

税理士法人ブライト相続
山田 浩史

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