(※写真はイメージです/PIXTA)

現在、日本では取り扱いに困った高齢者を収容し、適当に管理してくれる老人ホームが求められています。そして何より、多くの人から支持を得ている老人ホームは、「利用料金が安いホーム」です。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で、良い老人ホームの選び方を明らかにします。

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    「利用料金が安い老人ホーム」を選ぶ

    多くの高齢者は、自分のことを自分で決めると、子供たちから非難されます。まるで、子供扱いです。老人ホームへの入居しかり、再婚もしかりです。日本の多くの家族の事情からして、家族の誰かに従うことで家族の秩序が保たれる、ということなのでしょうか。

     

    私は、社会学の専門家ではないため、難しいことはわかりませんが、介護の仕事を通してそう感じています。つまり、自分から見て「子供」と「高齢者」は、自分の言うことを聞いていろ! ということなのです。

     

    大げさな言い方をすれば、子供と高齢者は自分の所有物なので、自分の支配下に置いて管理しなければならない、ということなのかもしれません。もちろん、その根底にあることは、子供あるいは高齢者本人が判断するよりも、自分が判断したほうが本人のためになるという善意や好意であるということは言うまでもありません。保護者とか管理者という役割です。

     

    いずれにしても、高齢者の場合、子供たちの支配下に置かれ、自ら老人ホームに入ると言えば、何を血迷ったのか! と反対され、子供たちから老人ホーム送りの処分を下されれば、今度は高齢者本人が「自分で買った家から、なぜ追い出されなければならないのか」と抵抗する、という滑稽な構図になります。

     

    だから、世の中にある老人ホームの多くは、事実上、認知症高齢者をターゲットにした介護施設が多くなっています。その理由は、子供の判断だけで入居を勝手に決めることができるからです。よく周囲を見渡してください。多くの老人ホームは、その「営業科目(あえてそう言います)」の中に、「認知症」を挙げているはずです。これは、認知症高齢者が、一番簡単に、労せず、集めることができるからです。

     

    理由は、もうおわかりですね。当人からの明確な意思表示がなく、もしあったとしても子供の意思表示が優先されるからです。そして、家族は保護者として「本人のため」という大義名分のもとで老人ホームへの入居を決断することができます。

     

    もっと言うと、問題行動などで困っている家族の場合、我慢に我慢を重ねてきている関係で、老人ホーム送りにすることに躊躇や罪悪感が薄れているということもあると思います。

     

    だから、世の中には、認知症などを理由に社会生活に支障をきたす高齢者用の介護施設が、大量に普及しているのです。

     

    現代社会では、取り扱いに困った高齢者を収容し、適当に管理してくれる老人ホームが求められています。そして何より、多くの方々から支持を得ている老人ホームは、「利用料金が安いホーム」です。とにかく安くリーズナブル。仕方がないことですが、このトレンドは急速に拡大しています。

     

    ちなみに、老人ホームの「質」は、安かろう、悪かろうです。老人ホームの運営にかかる費用の50%以上が人件費だからです。低価格料金にするためには、人件費を削減する以外に方法はありません。今のような低価格志向が今後も加速すると、そのうち、専属の介護職員のいない、入居者同士でお互いに足りないところを助け合う、相互扶助の共存共栄型の老人ホームが出てくるのではないでしょうか?

     

    冗談みたいな話ですが、現実味があると思いませんか? 土地の安いところに、小さな家をたくさん建てて一つの集落とし、管理棟を造って、管理人を一人置き、原則、自分のことは自分でやりながら、でも、できないことだけを、介護保険制度の中でやってもらう。

     

    しかし、介護保険制度で支援をしてくれる介護職員は、実は、自分と同じ集落の住民だという仕組みです。お互いに足りないところを足りている人が補って生活をしていくというスキームと言えます。コストのことを考えれば、このような発想にならざるをえません。

     

    次ページ老人ホームは現代の姥捨て山か? 

    ※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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