なぜ病院長は「職員にとっても良い病院を作ろう」と考えたのか

二次医療圏で機能的に救急医療を実践する病院の事例から【中編】

なぜ病院長は「職員にとっても良い病院を作ろう」と考えたのか
(※画像はイメージです/PIXTA)

年間を通して24時間断らない医療を実現するためには、相応の工夫と環境と仕組みがないとできません。職員が働きやすい病院にしなければ、目標の実現は不可能です。新病院の開設で病院長がこだわった3つの施策があるといいます。それはどんな施策なのでしょうか。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房、2020年11月刊)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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      地域連携では医師同士のコンタクトが重要

      埼玉石心会病院には、まずは受け入れてベストを尽くす伝統があるという。職員はみな高いプロフェッショナル意識のもと、理念を実現する志をもっている。年間9,000件の救急要請を受け入れる実績を保てているのは、職員一人ひとりの情熱はもちろん、トップクラスのスキルと連携があってこそ実現できている。連携については、面白い取り組みが2点挙げられる。

       

      1点目は、内科医、外科医の融合である。例えば、一般的に内科医、外科医は、別々の診療科として患者を診る。しかし、先に挙げた3つのセンターではすべて内科医、外科医がチームを組み、最先端の治療を執り行っている。これにより治療方法は何通りもの組み合わせが生まれ、より最適な治療を提供できている。

       

      2点目は、医局が1つの部屋になっていることであり、これも連携が上手くいく大きな要因だと言える。医局は医師にとって、情報を共有する重要な場所である。例えば、診察後に一息つく、または、勉強をする場合、プライバシーが保たれる方が良いこともある。そのため、半個室風の間取りが用意され、目が疲れないように間接照明が施されている。

       

      また、医師同士のコミュニケーションがとれるよう、広々としたラウンジスペースや気分転換ができるリフレッシュテラスも用意されている。医局は活気にあふれ、医師同士はお互いの立場を尊重しつつ、自由に発言できる雰囲気を持つ。医局の席決めは診療科を分散させた席次にした上で、「あみだくじ」で決めており、ほかの診療科やスタッフとの垣根も低い。様々な医師が集まる中で、それぞれの考え方を尊重し合い、ディスカッションが生まれるという。

       

      これらの一つ一つには、石原病院長(当時)の強い思いがある。

       

      「どこの病院でも患者さんにとっていい病院にすることは考える。でも、職員にとっても良い病院であるということを誰かが責任をもってやらないといけないと思っている。良い病院、良いチームをつくる時、個人個人のモチベーションや創意工夫に頼るのは良くない。仮に、それで回っていたとしても、それは運営側としては役不足である。誰か責任をもって職員が良い状態で実力を発揮できるパフォーマンスを出せるようなことを、病院側がどこまで工夫ができているのか、という視点が病院として重要だと思っている。」

       

      と強調していた。石原病院長(当時)が責任を持ち、石心会の法人の全面的な理解と協力支援のもと、理念の実現に向け環境を積み上げている。

       

      ■地域の医療水準を上げるための活動

       

      石原病院長(当時)は地域の医療水準をあげるために、前職の大学医学部教授時代から地域の医師を集めた研究会を開いている。その背景として、次のように話す。

       

      「埼玉県は、混沌とした地域であった。もともと県内に専門性の高い脳血管治療の場はなかった。そのため、専門の診療科をつくっていくことが第一目的であり、多くの人材を育ててきた。いま彼らは、全国で活躍している。当時は、地域医療が展開できていなかった。患者への情報も行き届いていない、プラットフォームがない状態であった。まだ、医師自体がわかっていないため、地域のコンセンサスを得る必要があった。研究会は2000年から始めている。頭の専門領域を担う人材を育成してきた。

       

      研究会は、大学の教授時代に大宮の地でたった10人からはじめた。大学の名前で患者の病気は治るわけではない。だから大学も年齢も関係なく、この地域に貢献できるかどうかで、誰でも参加できる環境を整えた。ここでは患者への説明、インフォームドコンセントのやり方や資料、治療の説明書をつくることも含めて、年4回セミナーや検討会を実施した。最初は何もできなかったが、3年経った段階で症例検討会ができるようになっていた。20年続けてきて、今は年2回実施している。これは地域の底上げになっている。」と、振り返る。

       

      また、地域連携については、「一般的に地域連携室に丸投げのところが多い。誰にならお願いできるのか、この患者をなんとか助けないといけない、この地域で誰なら助けてくれるのか、人を信頼し関係をつくり、結果として地域が連携できる。単なる仕組みでは人は動かない。地域連携では、医師同士のコンタクトが重要である。」と、語っている。

       

      救急救命治療には、地域連携が欠かせない。地域の医療を底上げするため、脳血管治療の第一人者は、長年地道に人を育てネットワークをつくっていた。

       

       

      杉本ゆかり
      跡見学園女子大学兼任講師
      群馬大学大学院非常勤講師
      現代医療問題研究所所長

       

       

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