(※写真はイメージです/PIXTA)

日本には今「廃業するにはもったいない会社」が数多く存在します。そもそも、事業承継にはどのような方法があるのでしょうか。一般的な選択肢である「親族内承継」や「社内承継」、「第三者へのM&A」の3つについて、メリット・デメリットを改めて見ていきましょう。

親族内承継の次に多い…優秀な社員が継ぐ「社内承継」

社内承継は「家族に後継者となってくれる人材がいない」「経営者としての能力を持つ後継者候補の子がいない」など、親族内承継ができない場合の次善策として選択されることが多いようです。しかし、最近は同族経営にこだわらず、優秀な社員に経営を継がせたいと考えるオーナーも増えています。

 

『中小企業白書2019年』では「親族以外の役員・従業員」への事業承継は19.1%となっており、親族内承継に次いで高い値です。

 

■社内承継のメリット

社内承継を行うメリットは社員たちの働きぶりや人柄をよく見たうえで、経営や実務に関する資質や能力を持っている者を後継者として選べる点です。

 

社内にいる後継者候補は、自社の業務の中身や収益を出す方法をひと通り習得しています。最初から高い能力を持つ後継者を選定している分、承継後の経営についての心配は少なくなります。

 

また自社の経営方針や風土、事業の方向性などをすでに理解しているため、外部から後継者を呼んできた場合のように、後継者教育をゼロからする必要はありません。

 

承継前後で方針などが変わる可能性も少ないので、他の従業員からの理解を得やすく、従業員の離職のリスクも減らせます。

 

ただ、日々の業務はできても会社のトップとして経営するとなると勝手が違います。事業承継はしたもののリーダーシップが発揮できないケースもありますので、選任には注意が必要です。

 

■社内承継のデメリット

社内承継の最大のデメリットは、株式を引き継ぐための資金力が後継者に求められる点です。

 

社内承継では有償または無償で自社株を後継者に引き継ぐことになります。有償の場合は買収資金が必要です。無償でもらう場合は贈与にあたるので、贈与税の納税資金を準備しなくてはいけません。

 

自社株評価が高ければ高いほど、後継者の資金面での負担は大きくなります。たとえ後継者に経営能力があっても、資金力がなければ事業承継することはできなくなってしまいます。

コロナ禍で特に増加…外部に会社を売却する「M&A」

M&Aは英語のMergers and Acquisitionsの頭文字をとったもので、他の会社や経営者に会社を買い取ってもらう方法です。

 

M&Aはここ10年あまりで認知度が上がり、事業承継の方法として選ばれることが増えてきました。

 

国内のM&A件数を調べたデータで確認すると、2010年には約1700件でしたが、2019年には4000件を超えて過去最高を記録しました。2021年はコロナ禍に喘ぐ企業が増えている影響で、2019年を超えるペースで推移しています。

 

■M&Aのメリット

M&Aのメリットとしては、幅広く外部から承継先を探せる点があります。身内や社内に後継者候補がいなくても、国内外から会社を買いたい人が出てくれば事業承継ができます。

 

また、高値で会社を買い取ってもらえれば、オーナーがその売却利益を得られます。承継先の会社とのシナジー効果で、事業の将来性が拓ける可能性もあります。

 

■M&Aのデメリット

デメリットとしては、M&Aの相手(買い手)が見つからない可能性があることです。

 

基本的にM&Aは大手企業を対象にしたものが多く、事業規模の小さい会社はエントリー対象外のことがあります。また事業規模は満たしていても、財務内容が悪いとなかなか買い手は見つかりません。

 

買い手が見つかってもこちらの希望通りの売却金額で買い取ってもらえない可能性もあります。買い手と売り手で希望が合わないと、売買契約は成立しません。

 

買い手側も承継後に問題が起こると困るので、会社に瑕疵がないか厳しい眼で審査してきます。例えば、従業員との間で残業代未払いなどのトラブルを抱えていないか、決算書を実際以上に見栄えよくしていないか、財務内容がきれいかなどです。同族会社では会社の資産とオーナー個人の資産がごちゃ混ぜになっているケースがよくありますが、M&Aでは嫌われます。

 

売買が成立して会社を売却した後に瑕疵が見つかると、損賠賠償請求の裁判を起こされることもあります。もう1つ、承継後に従業員の雇用や社名、企業文化が引き継がれない可能性もあります。

 

M&A後しばらくは従業員の雇用を続けてくれたとしても、半年後や1年後に一斉解雇されてしまうケースは珍しくありません。社名や企業文化も同様です。

 

さらにM&Aで契約書を交わしてしまうと「やっぱり売りたくない」「良い後継者が見つかった」というときも後戻りができない点には注意が必要です。最終契約書の解約には賠償金の発生だけでなく、次回以降M&Aしたいと思っても取り合ってくれる仲介業者がいなくなるなどの大きなペナルティがあります。

 

 

宮部 康弘

株式会社南星 代表取締役社長

 

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※本連載は、宮部康弘氏の著書『オーナー社長の最強引退術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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幻冬舎メディアコンサルティング

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