(※写真はイメージです/PIXTA)

世界中で海運の玄関である港の競争力が競われるようになり、日本でもビジネスチャンスが広がっています。港の施設そのものの運営は、民間が行うことで高い効率や収益性を追求することが可能になってきました。今後、日本はどのように港湾ビジネスを拡大すべきでしょうか、渡瀬裕哉氏が著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)で明らかにします。

しがらみを断ち切る政権交代の重要性

こうした民間委託に反対する人たちも大勢います。

 

政治の世界には、しがらみがあります。しがらみというと、利権や既得権益を想像する人も多いと思いますが、その背景となっているのは、その時点までの様々な経緯の積み重ねです。しがらみを漢字にすると「柵」です。流れを堰き止めるという意味から転じて、身を束縛するものという意味を持っています。

 

しっかりした政権であればあるほど、長年の蓄積によって拘束力が強くなるものです。コンセッション方式の導入で公共施設の運営権を民間委託しようとしても、これまでの運営方法を守ろうとする抵抗勢力が多いので、まず法案化するのが難しいのです。

 

では野党がしっかりすればいいのかというと、野党の中にも与党と異口同音に反対する人たちが大勢います。民主党への政権交代では、一旦それまで継続されてきた経緯が途切れたことと同時に、政権交代の勢いと混乱の間隙を縫うようにして、民営化が実現しました。民主党政権について批判的な声は今でも大きく、政権運営への評価には厳しいものがあります。

 

しかしながら、政権運営ではなく政権交代そのものには、しがらみをズバッと断ち切る力があります。政権交代が定期的に起きることは、日本に新しい流れを生む、淀んでいたものを動かす点で、重要な意味があるのです。

 

もっと政治の現場に近いところに焦点を当てると、しがらみを構成するひとつに各省庁と政治家の人間関係や、前任者からの方針の踏襲といった過去の経緯があります。政権交代で省庁に乗り込んだ人には、省庁側から「これまでは、こういう経緯でやってきました」と言われても、「前任者のことは知りませんよ」と言える強みがあるのです。

 

国防や外交という国家の存立に重要な事柄では、あまりにも連続性を欠けば国際的な信用に関わることは民主党政権で経験済みですが、それ以外のことで極度に変化を怖がるのは、「羹に懲りて膾を吹く」そのものです。

 

従来、行政が運営してきたものを民間に委託するときには、必ず困難がともないます。右のような政治的な事情によって、リスク負担の議論が冷静に行えないこともあります。コンセッション方式の導入の目的は、経営や設備投資を含め行政にはできないことを民間にお願いすることです。その結果、利用者へのより良いサービスや収益が生まれます。とは言っても、懐疑的な人もまだまだ多いでしょう。

 

ひとつ提案できるのは、比較してみようということです。2019年末から続いたコロナ禍によって、経済は一時停止の状況となりました。では、これが明けた後はどうでしょうか。実際に世界経済は動き始めています。

 

博多港のように民間企業の力を活かす方法を導入した場所と、そうでない場所を具体的に比較して、良い方を採用すればいいのです。そのときに重要なのは、どちらも粉飾や都合の悪いことを隠せない、情報の透明性と公正な評価基準です。

 

明快な基準にもとづいて、誰もが自分の目で両方を確かめられることで、より良い方法を選択し、必要な工夫を提案できること。福岡市の港湾コンセッションの取り組みは、そうした比較対象となり得る先行事例が海外事例ではなく日本国内にようやく生まれたという、日本の未来につながる最先端をいく大事なものなのです。

 

渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト
早稲田大学招聘研究員

 

 

※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

渡瀬 裕哉

ワニブックス

現在の日本の政治や経済のムードを変えていくにはどうしたらよいのでしょうか。 タックスペイヤー(納税者)やリスクを取って挑戦する人を大事にする政治を作っていくことが求められているといいいます。 本書には「世の中に…

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