年間救急車受入数9000件超…救急医療に取り組む病院の日常

二次医療圏で機能的に救急医療を実践する病院の事例から【前編】

年間救急車受入数9000件超…救急医療に取り組む病院の日常
(※画像はイメージです/PIXTA)

埼玉石心会病院は「断らない医療」を掲げて、年間の救急搬送数は9,000件を超え、他院からの紹介や直接自力で救急受診する患者は2万人を数えるという。救急医療を実践する埼玉石心会病院の事例を紹介します。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房、2020年11月刊)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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      ■埼玉石心会病院の概要

       

      社会医療法人財団石心会埼玉石心会病院は、1987年に288床の急性期病院(当時は狭山病院)として開設された。その後、進化する中で2017年11月に現在の地に450床へ増床の上、新病院として新築移転した。この新病院は、理念である「断らない医療」の実践のため、総合力の強化を図り、内科系11診療科、外科系9診療科、その他13診療科の全33診療科に加え、「ER総合診療センター」「心臓血管センター」「低侵襲脳神経センター」の3つの特徴的なセンターを有している。

       

      第1に、様々な救急疾患に対応するための「ER 総合診療センター」は、もともとあった総合診療科と救急科が合併したものである。総合診療科で治療を受ける患者の約96%が救急科からの緊急入院であったことから、オペレーションの向上を機能的に考えて設置されている。本来、ER型救急医療は北米型救急医療モデルを指し、①重症度、傷病の種類、年齢によらず、すべての救急患者をER総合診療センターで診療する。②救急医がすべての救急患者を診療するなどの特徴を持つ。

       

      このER型救急医療の導入は、理念である「断らない医療」にマッチしている。ER総合医療センターは、高度な医療を提供するため、救急指導医・臨床研修指導医に加えて整形外科専門医などの医師が常勤し、看護師、救急救命士など総勢50人のスタッフが救急医療を支えている。

       

      第2に、重篤な急患の多くが脳と心臓の病気を抱えていることから、心臓疾患を循環器内科医、心臓外科医らが協力連携し、切れ目のない医療を提供するハートチーム(心臓専門チーム)を編成し、「心臓血管センター」が設置されている。ここでは最新式のCT や心臓カテーテル室、専用の手術室を完備し、当直体制を敷いて時間との勝負が生死を分ける急性心筋梗塞や大動脈解離などに備えている。

       

      また、TAVI(経カテーテル大動脈弁植込術)の実施施設の認定を受けていることから、治療選択肢が増え、多くの弁膜症患者の治療を可能としている。最近では、カテーテルを用いた不整脈治療件数も飛躍的に増えている。

       

      第3に、全国で珍しい「低侵襲脳神経センター」は、脳動脈瘤や主幹動脈の狭窄によって起こる脳梗塞や心源性脳塞栓症、脳動静脈奇形などを中心に、カテーテルを用いた脳血管内手術や各種水頭症、脳内出血に対する神経内視鏡手術など、頭を開けないで脳に負担やダメージを極力与えない低侵襲治療を行う。ここでの治療の最大の武器となるのは、石原病院長(当時)が医療機器メーカーと共同開発した、多様な術式に対応できる世界初の最新ハイブリッド手術室である。

       

      これは、MRI、CT、血管造影・脳外科顕微鏡・ナビゲーション・神経内視鏡といった設置をすべて備えており、手術や術中の検査に至るまで、患者を移動させることなく治療が行え、脳血管内手術、開頭手術と内視鏡手術のような複数の術式も同時に行うことができる。

       

      また、最新のナビゲーションシステムと神経内視鏡手術用の機器を導入することで、脳深部の病変でも安全にアプローチできる。これにより手術戦略や方法が大幅に変化し、手術時間も短縮できるという。これらは、脳神経外科医、神経内科医、精神科医、リハビリテーション医らが協力し治療を行う。

       

      病床数は450床で、その内訳は一般病床390床、集中治療室12床、ハイケアユニット27床、緩和ケア20床、回復期40床を持つ。これらを支える常勤の医師は約130名、看護師は約540名、全職員数は1,250名を数える。

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