アマゾンが日本に上陸した2015年から2015年にかけて、ヤマト運輸では「宅急便」の取扱個数が急増し、ドライバーたちは過重労働を余儀なくされていた。しかしその後「働き方改革」により改善された労働環境も、ドライバーたちは手放しで歓迎できないようである。その実態を、物流ジャーナリスト・刈屋大輔氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『ルポ トラックドライバー』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「荷物受け入れ拒否」に顧客は怒り心頭…ヤマトが“強気に出た”ワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

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「前代未聞」宅急便の引受量制限…大きな反発も

サービス残業の常態化が発覚した後、ヤマトでは、現場での過重労働を解消しようと、様々な対策を打ち出した。

 

具体的にはまず、「宅急便」の引受量を制限する「総量規制」に踏み切った。

 

「総量規制」とは、集荷、幹線輸送、配達で形成する「宅急便」ネットワーク(インフラ)のキャパシティーを超えないよう、取り扱う荷物の量をコントロールするというものだ。

 

営業所に捌ききれない荷物が溢れかえっている状態は明らかにキャパオーバーであり、それが現場スタッフの長時間労働や残業の温床になっているとの判断から、「宅急便」の取扱量そのものを一時的に減らすことにした。

 

ヤマトでは「当分の間、一日当たりの発送量を20%程度減らしてほしい」といった具合に、日々の出荷量が多い大口顧客を中心に協力を要請した。ヤマトからの依頼に難色を示す顧客に対しては、全面的な取引中止も辞さないという強気の姿勢で交渉に臨んだ。この「総量規制」の実施は、従業員たちを守る立場にある労働組合からも強く要請されたことだった。

 

荷物の受け入れを拒否するという前代未聞のヤマトの行動に、反発する顧客も少なくなかった。

 

とりわけ強い憤りを示したのは通販会社だった。通販ビジネスはネット経由などで購入された商品を消費者に届けることで商取引が成立する。それだけに自分たちに代わって商品を配送してくれる宅配便は欠かせない機能だ。商品を運ぶことが拒否されれば、ビジネスそのものが立ち行かなくなってしまう。

 

それでもヤマトは意に介さなかった。大手はもちろん、受け入れ拒否が死活問題になりかねない中小零細規模の通販会社に出荷制限を迫ることもあった。商品配送の大部分をヤマトに委ねてきた最大顧客であるアマゾンに対しても例外ではなかった。

 

慌てたアマゾンは商品を安定的に供給する体制を維持するため、地域の軽トラ配送会社などを組織化した新たな配送ネットワークを構築した。「総量規制」以降は新ネットワークの活用比率を徐々に高めていくことで、ヤマトへの依存度を下げていった。