(写真はイメージです/PIXTA)

2021年8月に確定拠出年金を一時金で受け取る場合の課税ルールが変更されました。2022年4月から拡大される年金受給年齢の選択肢拡大に向けて、確定拠出年金の受け取り方法を新しい課税ルールで検討する必要があります。本記事では、ニッセイ基礎研究所の高岡和佳子氏が確定拠出年金を一時金で受け取る場合の課税ルールを解説します。 ※本記事は、ニッセイ基礎研究所の年金に関するレポートを転載したものです。

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    課税ルール変更の影響

    1.60歳になる年に退職して通常の退職金を受け取る場合

     

    現在、確定拠出年金を一時金で受け取ることができるのは60歳から70歳なので、確定拠出年金の一時金をいつ受け取っても、60歳になる年に受け取った通常の退職金は、同じ年か前年以前「14年内」となるため、退職所得控除対象期間の重複利用を避けるための調整対象になる。

     

    2022年4月以降、確定拠出年金の一時金受取の最終年齢が70歳から75歳に延長される。課税ルールの変更が行われなくても、74歳になる年までに確定拠出年金を一時金で受け取ると、60歳になる年に受け取った通常の退職金は、同じ年か前年以前「14年内」となるため、退職所得控除対象期間の重複利用を避けるための調整対象になる。

     

    一方、75歳になる年に確定拠出年金を一時金で受け取ると、課税ルールの変更が行われなければ、60歳になる年に受け取った通常の退職金は15年前のものとなり、前年以前「14年内」に退職金などを受け取った場合に該当しないので、退職所得控除対象期間を重複利用することが可能となっていた。

     

    しかし、2022年4月以降「14年内」が5年延長されて「19年内」に課税ルールが変更されるので、75歳になる年に受け取っても退職所得控除対象期間を重複利用することはできなくなった。

     

    2.55歳になる年に早期退職して通常の退職金を受け取る場合

     

    現在、確定拠出年金を一時金で受け取ることができるのは60歳から70歳なので、69歳になる年までに確定拠出年金を一時金で受け取ると、55歳になる年に受け取った通常の退職金は、同じ年か前年以前「14年内」となるため、退職所得控除対象期間の重複利用を避けるための調整対象となる。

     

    一方、70歳になる年に確定拠出年金を一時金で受け取ると、55歳になる年に受け取った通常の退職金は15年前のものとなり、前年以前「14年内」に退職金などを受け取った場合に該当しないので、退職所得控除対象期間を重複利用することが可能である。

     

    2022年4月以降、確定拠出年金の一時金受取の最終年齢が70歳から75歳に延長されるが、課税ルールも「14年内」から「19年内」に変更される。このため、70歳になる年から74歳になる年に確定拠出年金を一時金で受け取ると、55歳になる年に受け取った通常の退職金は、前年以前「19年内」となるため、退職所得控除対象期間の重複利用を避けるための調整対象になる。

     

    但し、75歳になる年に確定拠出年金を一時金で受け取ると、55歳になる年に受け取った通常の退職金は20年前のものとなり、前年以前「19年内」に退職金などを受け取った場合に該当しないので、退職所得控除対象期間を重複利用することが可能である。

     

    なお、2007年頃の状況(図表3)を考えると条件を満たす人は少ないだろうが、55歳になる年以前に早期・希望退職に応募、又は転籍により通常の退職金を受け取った人、具体的には以下の条件を満たす人はルールが変更される前の2022年3月までに確定拠出年金を一時金で受け取ることも検討した方がよい。「19年内」に変更になっても早期退職の20年後(2007年退職なら2027年)まで一時金の受け取りを待つことで、退職所得控除対象期間を重複利用可能だが、待っている間に課税ルールの変更もありうる。

     

    ・2022年3月時点で確定拠出年金の老齢給付金の受給権が有り、老齢給付金は未請求

    ・2007年以前に早期退職し通常の退職金を受け取った

    ・早期退職前、既に確定拠出年金に加入

     

    確定拠出年金法の施行が2001年10月なので、重複期間はたった7年と思うかもしれない。しかし、7年でも退職所得控除額は280万円(40万円×7年)に及ぶ。更に、企業型確定拠出年金加入時に退職手当制度等に係る資産の全部又は一部の移換を受けている場合は、入社から企業型確定拠出年金加入までの期間も勤続年数にカウントされるので、重複期間は7年よりもはるかに長い。

     

    [図表3]企業型確定拠出年金加入者数と早期・希望退職を募集する上場企業数の推移
    [図表3]企業型確定拠出年金加入者数と早期・希望退職を募集する上場企業数の推移

    早期・希望退職とFIRE

    退職所得控除対象期間を重複利用できる55歳早期退職は非現実的な仮定ではない。早期・希望退職募集に関するニュースを目にする機会も多い。東京商工リサーチの調査によると、2021年の早期・希望退職者を募集する上場企業数が10月31日までに72社に達した。

    ※『早期・希望退職、1000人以上の募集が5社実施規模の“二極化”進む2021年1-10月上場企業「早期・希望退職」実施状況』

     

    また、若者を中心に経済的に独立し、早期リタイアを実現するFIRE(Financial Independence & Retire Early)が人気だ。就業希望年齢に対するアンケート調査で、55歳以下と回答した20代は7.5%で、40代の3.9%の約2倍に及ぶ(図表4)。

     

    [図表4]年代別就業希望年齢
    [図表4]年代別就業希望年齢

     

    「若者は現実が見えていないだけ」と思うかもしれないが、そうとも限らない。早期リタイアを目指した準備を怠らない若者もいる。日経マネー「2021年個人投資家調査」によると、24歳以下で投資をしている会社員の内、投資の目的が「早期リタイア」であると回答した割合は21%で、「老後資産づくり」と回答した割合19%を超える。

    最後に

    高年齢者が活躍できる環境整備を背景に、確定拠出年金の受給開始時期が60歳から75歳までに改正された。受給時期を調整することにより多額の退職所得控除を受けることがないようルールを変更するのは不公平をなくすために良いことだと思う。

     

    しかし、労働市場の流動化、雇用慣行の変化、働き方の多様化を考えると、特定の年数を基準に重複期間の調整の要否を判別することには無理があり、また20年を境に1年当たり退職所得控除額が40万と70万と違うことにも合理性がないのかもしれない。

     

    確定拠出年金のメリットの一つに離職、転職の際の年金資産の移転、すなわちポータビリティーがあり、自助努力による老後資金形成の重要性は高まってきているので、将来に向けては、より公平で合理的な課税ルールを期待したい。

     

    なお、今後も課税ルールの変更等もありうる。退職金などに関して、実際の受け取り時期の決定に際しては、税理士や税務署に確認することを是非ともお勧めしたい。

     

     

    高岡 和佳子

    ニッセイ基礎研究所

     

     

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    本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    ※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2021年12月28日に公開したレポートを転載したものです。

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