(※写真はイメージです/PIXTA)

日本企業が労働生産性を高めるには、どうすればよいのでしょうか? 長時間労働が見直され、社員の能力を上げようにもすぐに結果を出すのは難しい…。そんな現代日本においては、人材の「パフォーマンス」を高めることが効果的です。事例とともに、ハイパフォーマーを育てる実践的な方法を見ていきましょう。

ハイパフォーマーをできるだけ早く増やす方法

A社の場合、ローパフォーマーが多かったので、まずは彼らをアベレージパフォーマーに引き上げていく必要があります。しかしそれには時間がかかります。また新商品を開発するためには、ハイパフォーマーが一定数以上必要です。それでは、ハイパフォーマーを急いで増やすにはどうしたらいいのでしょうか。

 

一つにはハイパフォーマーを採用することです。それには通常の採用試験や面接にビジネス適応力検査を加えて応募者を評価することが役立ちます。

 

もう一つは社内で育成することです。2対6対2の法則は、組織内に優秀な人が2割、6割が平均的な人、そして残り2割が平均以下の人という意味です。似たような法則に「2・8(にっぱち)」の法則というのがあり、これは会社の売上の8割は上位2割の人が稼いでいるとか、会社の売上の8割は上位2割の優良顧客から頂いているといったものです。いずれにしても優秀な人は上位2割で、優秀と平均以下は左右対称に並ぶ(統計用語では正規分布する)ということです。

 

実際のハイパフォーマー、アベレージパフォーマー、ローパフォーマーの比率は、ハイパフォーマー(HP)が平均14.2%、アベレージパフォーマー(AP)が71.6%、ローパフォーマー(LP)がやはり14.2%でした。これは平均値であり、組織によってはハイパフォーマーが30%近くいるところもあります。少ない組織でも、だいたい10%は存在するようです。

 

実は、ハイパフォーマーはアベレージパフォーマーの上位にいる人たちを見つけて育成することで、意外に早く増やすことができます。上位の人たちはもともとハイパフォーマーと似たような感覚をもっており、働きかけに対して敏感に反応し、ハイパフォーマーにシフトすることがデータで実証されています。彼らはヒントさえ与えれば、自分で考えてステップアップすることができる人たちだと考えられます。

「レジリエンス研修」でハイパフォーマーを促成

上位アベレージパフォーマーへの働き掛けは、職場では偶発的に起きることです。たまたま上司と部下になったり、同じプロジェクトの一員になったりというような機会がなければ、なかなか起こらないと考えられます。またもともとハイパフォーマーの要素をもっている人でも、さまざまな経験を経て、ハイパフォーマーとしての行動様式を自然と身につけるものです。

 

こうした働き掛けや経験を意図的につくり出して、ハイパフォーマーを促成できるものとして「レジリエンス研修」というものがあります。

 

レジリエンス(Resilience)とは、困難や逆境のなかにあっても心が折れることなく、状況に合わせてしなやかに対応する強さのことです。本連載の言葉でいえば、仕事のストレスの増強要因に打ち勝つ力です。そのため、職場でできることは、ストレスの緩和要因でもある「周囲の支援」を強めることです。それによってストレスに打ち勝つ力を手にすることができます。一方、個人としてストレスに打ち勝つためにできることは、自己信頼度(結果予期、効力予期)と前向き度(有意味感、把握可能感、処理可能感)、すなわち「ストレス対処能力」を鍛えることです。

 

レジリエンス研修では、マネージャー層・リーダー層にレジリエンスとは何かを説明し、部下にどのような働き掛けをしたらよいかを伝えます。そこで学んだことをマネージャーやリーダーが現場で実践することで、自分の部下がハイパフォーマーに移行する契機を与えることが研修のねらいになります。ちなみに、ここで付け加えたいことは、研修参加者を絞らず一律に実施するよりも、アベレージパフォーマーの上位者に対して研修するほうが効果が現れやすいということです。

 

ある大手メーカーでレジリエンス研修を実施し、セミナー前後におけるストレス対処能力の変化を調べたデータがあります。これによると、有意味感に統計上有意な変化がありました。参加者数百人のうち、有意味感が中程度の人の割合が74.4%から70.5%に減少し、高い人の割合が14.8%から17.9%に増加しました。結論としては、レジリエンス研修では、有意味感の低い人たちを減らす効果はなかったものの、高い人を増やす効果があるということが分かりました。この知見がアベレージパフォーマーの上位者がハイパフォーマーに移行するという事実の根拠になっています。

 

考えてみれば、一を聞いて十を知る人がいる反面、十を聞いても何も響かない人がいます。研修の効果や効率を高めるためにはどうするか、というテーマを考えるヒントにもなります。これまでのように特定のテーマで実施する集合研修ではできなかったことが、リモートスタイルの普及で、参加者のレベルに合わせた個別性の高いテーマで研修することができ、研修効果が飛躍的に高まる可能性も出てきたと思います。

 

 

梅本 哲

株式会社医療産業研究所 代表取締役

 

 

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※本連載は、梅本哲氏の著書『サイエンスドリブン』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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幻冬舎メディアコンサルティング

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