コロナショックは健全経営されていた会社ほど経営インパクトを受けやすい。(※写真はイメージです/PIXTA)

ドイツの大手フィンテック企業のワイヤーカード社が自社の不正会計から帳簿に載っていた手元資金の約2200億円が存在していないことが発覚して、同社は破綻となりました。5年間、企業の粉飾を見抜けなかった監査法人の人材不足が露呈しました。今後、監査法人はどうなるのでしょうか、国際投資アナリストが著書『最強の外資系資産運用術』(日本橋出版、2021年4月刊)で解説します。

5年間、企業の粉飾を見抜けなかった監査法人

6月26日のFTによると、『会計監査を担当していたアーンスト・アンド・ヤング(EY)が預金残高の十分な確認を3年間怠っていたと報じた。…EYは2016~18年、ワイヤーカードがシンガポール大手のオーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)の口座に持つとされた最大10億ユーロ(約1200億円)について、銀行側に直接の確認を取っていなかった。資産の受託者や同社が提供した書類、画面コピーなどで手続きを済ませていたという。』

 

日経によると『EYはワイヤーカードの不正会計疑惑について「世界の複数の機関が関与した、入念かつ巧妙な詐欺行為だ」との声明を25日に出していた。「最大限の強固な監査手続きでもこの種の不正は見つけられないだろう」と弁明したが、監査プロセスの適正性に今後メスが入るのは避けられない。』

 

日本との関りだと、ワイヤーカードは2019年4月にソフトバンクグループ(SBG)の関連会社との提携で、発行済み株式の約5.6%分に相当する普通株に転換できる新株予約権付社債(転換社債=CB)をSBGの子会社が約9億ユーロで引き受けることなどで合意していた、そうです。

 

2020年6月のワイヤーカード社破産を受けて、同社はDAX30から除外され、また事業売却も進み、米国部門(以前のCitigroup’sPrepaidCardServices)は他社への売却が進行中しており、英国事業(Railsbank,aUKstart-upbackedbyVisa)とブラジル事業(PagSeguroDigital,aNewYork-listedcompetitor)も各売却相手に売却が決まった、ということです。

 

まだすべての真実は分かっていないものの、ドイツ検察の見立てだと下記のようである。

 

『マークス・ブラウン氏ら旧経営陣は5年前の2015年に売上や資産を水増しすることで意見を擦り合わせ、その後、偽りの決算情報をもとに銀行や投資家から32億ユーロを引き出した疑いがある。ワイヤーカードの破産申請によって、これらの資金は「失われてしまった可能性がかなり高い」(ライディング検事)という。

 

水増しの手段になったのが「TPA」と呼ばれる海外のパートナー企業との取引だ。ワイヤーカードはクレジットカードなどの資金決済サービスを請け負う会社だが、免許のないアジアなどでは第三者のパートナー企業を通じて業務を行っている。TPAを通じ、実態のない取引が売上に計上されていた疑いが強まっている。』

 

上記見立てが真実であれば、ワイヤーカード経営陣は悪意のある詐欺を行っていた、ということ、と思われます。そして5年間もその不正会計を見抜けなかった、ドイツ連邦金融監督庁や監査法人の体制やプロセスも大幅に見直されるように動いていっているようです。

 

『ドイツのショルツ財務相は16項目からなる行動計画の作成を始めた。…金融監督庁に対して金融市場に関係するあらゆる企業に特別検査を実施する権限を持たせるなど、監督機能の強化が柱となる。…企業に監査法人を10年ごとに交代することを義務付け、監査法人の助言業務と監査業務も厳しく切り分ける。』

 

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    ※本連載は、後藤康之氏の著書『最強の外資系資産運用術』(日本橋出版、2021年4月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

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