(※写真はイメージです/PIXTA)

経営者が社員と共に学び共に育つ、共育の場をに参加すると、社員の離職率が下がっていくという。どんな秘密が隠されているのでしょうか。岡山県中小企業家同友会の試みをレポートします。

職員の70%が幸福を感じる病院

岡山同友会では「社員共育大学」「同友会大学」に加え、他県の同友会に見られない取り組みとして「教育講演会」という催しを、25年間にわたって実施してきている。「人材育成は学校や企業だけの課題ではなく、地域全体の課題である」との考え方に基づき、同友会独自の理念「共育ち」「共育」を、県民や県内の教育関係者に幅広く知ってもらいたいとの狙いからである。

 

こうしたことから、岡山同友会では「社員共育大学」「同友会大学」に加え、「教育講演会」をもって社員教育の3本柱としてきた。しかし07年度に「経営指針書に基づく経営実践のために経営者と一体で事業に主体的に取り組む幹部社員の育成」「幹部社員が、他社の経営者と本音で意見交換をし、自社の経営理念への理解を深める」の2点を主たる目的に「幹部社員大学」を立ち上げたことから、今日では「幹部社員大学」を「社員共育大学」「同友会大学」とともに3本柱としている。

 

「幹部社員大学」は目的が前述のようなこともあり、参加企業は経営指針を作成していることが必須で、参加者は1社1人、しかも「社員共育大学」「同友会大学」の修了者および卒業者であることと、かなり縛りがきつい。講義では経営理念を具体化するプロセスやマネジメントの基礎を学び、リーダーとしての自己変革を促すなど、レベルは相当に高い。

 

また毎回宿題が課され、部下の意見も聞きながら課題に取り組むことが求められるが、経営者と幹部社員の信頼関係が深まることもあり、ほとんどの参加者が修了に至る。岡山同友会の「共育」への熱意は生半可ではない。

 

岡山市の中心部、東には「百鬼園」こと内田百閒先生ゆかりの百間川が流れる中区に、「脳・神経・運動器疾患の専門病院」を謳い、「安心して、生命をゆだねられる病院」「快適な、人間味のある温かい医療と療養環境を備えた病院」などを経営理念に掲げる操風会岡山旭東病院がある。

 

院内は木造家屋のような温かみのある雰囲気で、壁面にはいくつもの絵画が飾られ、廊下の一部は吹き抜けで、植栽の緑が訪れた人の心を和ませる。機能的で清潔だが、やや冷たい感じのする一般の病院とかなり趣が異なる。病院でありながら、2013年には経済産業省の「おもてなし経営企業選」に選ばれているのも頷ける。

 

一方で、世界でも8番目に早く導入した定位放射線治療器「サイバーナイフ」をはじめ、国内・県内でも最先端とされる医療機器を導入している先端医療機関でもある。規模的にも県内有数で、11の診療科を有し、ベッド数も200床を超える。

 

こうした岡山旭東病院の特徴をつくり上げたのは、岡山同友会の顔とも言うべき18年で78歳になる土井章弘院長だ。土井氏は1965年、鳥取大学医学部を卒業すると、アメリカ留学を経て岡山国立病院、香川県立中央病院で脳神経外科医として腕を磨き、88年に父親が別の場所で創立したこの病院に院長として戻った。その間、香川時代に中小企業家同友会を知り、理念経営に心酔し、岡山に帰るとさっそく同友会に入会している。

 

「人間というのは本来、自己中心的。だけど、人と関わっていないと生きていけない存在なのです。そのためには関わり合いの知恵を学ぶことが必要。まさに同友会が大事にする共に育つことが重要なのです」

 

土井氏は同友会の理念に基づき経営指針づくりを始め、その後経営指針づくりだけでなく病院運営も、看護師、医療技師や事務職員たちの協力を得た参加型に徐々に変えていった。経理の公開も早い。専門知識の習得のための研修会等への派遣はもちろん、岡山同友会の「社員共育大学」など3つの大学にも積極的に看護師・技師・職員たちを送り出してきた。経営指針の1項目「職員ひとりひとりが幸せで、やりがいのある病院」に向けての実践でもある。

 

「うちの病院では辞める人が少ない。数年前に経営的に苦しいときがあったのですが、同友会で学んだ人たちは民間企業がいかに苦しいかを聞いていますから、むしろ率先して(経営改善に)頑張ってくれました。調べてみるとうちの職員たちの70%が(生活面、職場環境ともに)幸福だという結果が出ていますが、これは私自身への成績表だと誇りに思っています」と、土井氏は温顔をほころばす。

 

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    ※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

    小さな会社の「最強経営」

    小さな会社の「最強経営」

    清丸 惠三郎

    プレジデント社

    4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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