中国REIT、保険業からの期待…「保険資金によるREIT投資に関する調査」からみた潜在的な市場規模と制度整備に向けた課題

中国REIT、保険業からの期待…「保険資金によるREIT投資に関する調査」からみた潜在的な市場規模と制度整備に向けた課題
(写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、ニッセイ基礎研究所が公開した REIT(リート)に関するレポートを転載したものです。

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    保険業へのアンケート結果からみたREIT投資の課題~投資基準を満たしていない、法制度・税制優遇策の不整備

    1.REIT投資の制約要因~関連政策が明確でないが5割強

     

    既にREITに投資している保険業22社に対するアンケート結果をみると、REIT投資の制約要因として最大の課題は、中国REITが未だパイロットプロジェクト実施段階にあり、リスク管理や監督など「関連政策が明確でない」が54.5%と半数強を占める。

     

    その他の課題として、対象不動産の資産価値評価、会計処理の困難さ、投資のリスクも挙げられている。また、1社からは現在のインフラ公募REITの対象分野が限られているという意見もあった[図表4]。

     

    [図表4]保険業からみたREIT投資の制約要因(n=22・単一回答)
    [図表4]保険業からみたREIT投資の制約要因(n=22・単一回答)

     

    2.REIT投資をしていない理由~投資基準を満たしていないが約4割強

     

    一方、REITに投資していない52社の投資していない理由をみると、「投資基準を満たしていない」が42.3%で最も割合が高く、次いで、「今後の動向を注目したい」が36.5%、「投資先の評価・調査が不十分」が7.7%で続く。

     

    中国銀行保険監督管理委員会の現行の「保険資金運用管理弁法」(2018)の保険資金の投資範囲において、インフラ公募REITの記載はなく、現在は暫定的に「不動産」投資に分類されている。保険業による「不動産」投資には、不動産投資管理能力、支払能力や資産管理評価能力などが要求され、これらの基準を満たさないとインフラ公募REIT投資はできないことが、一部の保険業にとっては制約要因となっている。

     

    この課題に対して、中国銀行保険監督管理委員会は2021年11月17日に、「保険資金による公開募集インフラ証券投資基金の投資に関する通知」を発表し、保険業によるインフラ公募REITの投資は可能であることを明確にした。

     

    具体的には、保険業が直接にインフラ公募REITに投資する場合、資産負債管理能力※1が80点以上やソルベンシー・マージン比率(保険会社の保険金等の支払能力の充実の状況を示す比率)が150%以上との条件が設定されているが、業界筋の情報では、「難しい条件ではない、ほとんどの保険業がこの条件を満たすだろう」という。

    ※1 中国銀行保険監督管理委員会は「保険資金負債管理に関する監督管理の暫定的弁法」(2019)により、保険会社の基盤と環境(組織構成など)、制御とプロセス(アカウント管理、情報管理など)、モデルとツール(資産管理モデルなど)、業績評価と管理レポートについて、100点を満点とし採点する。

     

    さらに、戦略的投資家・機関投資家の投資基準について、中国証券監督管理委員会「インフラ公募基金投資ガイドライン」では「法令を遵守する」など網羅的な定義をしているが、インフラ公募REIT各銘柄の目論見書では独自の投資基準を設けている。例えば、戦略投資家については、高い評価と影響力、強い財務力が求められているほか、オリジネーターと戦略的なパートナーシップまたは長期的な協力ビジョンを持っていることも明記されている。

     

    その他、長期的な投資意欲や豊富なインフラ関連投資経験も挙げられている。また、機関投資家については、証券会社、基金管理会社、信託会社、保険会社及び保険資産管理会社、適格海外機関投資家、商業銀行、年金基金など、中国証券監督管理委員会や証券取引所が規定する適格投資家が挙げられている[図表5]。

     

    [図表5]保険業がREIT投資をしていない理由(n=52・単一回答)
    [図表5]保険業がREIT投資をしていない理由(n=52・単一回答)

     

    3.REIT投資の課題~法制度・税制優遇策の不整備が7割

     

    続いて保険業へのアンケート結果からREIT投資の課題についてみると、「政策・法律の不十分」が70.3%で最も割合が高く、「投資管理プロセスが明確でない」が48.6%を占める。その他、「経験の不足」、「協力体制が整備されていない」、「投資に関する専門知識や能力の不足」がそれぞれ58.1%、47.3%、39.2%となっており、業界全体の投資体制の整備不足が問題として挙げられている[図表6]。

     

    [図表6]REIT投資の課題(n=74・複数回答)
    [図表6]REIT投資の課題(n=74・複数回答)

     

    また、REIT投資において、監督管理機関に具体的にどのような政策が期待されているのかをみると、「REIT商品の支払能力の確保(準備金を一定率確保など)に関する規制策」が81.1%で最も割合が高く、新しい金融商品として、REIT自身の資金繰りや運営能力が懸念されていることが分かった[図表7]。

     

    [図表7]REIT投資において期待される政策支援(n=74・複数回答)
    [図表7]REIT投資において期待される政策支援(n=74・複数回答)

     

    次いで、「税制優遇策」が79.7%で続いている。現在インフラ公募REITに関する税制優遇策がないことに加え、REIT組成には複雑な仕組みを採用せざるを得ないため、設立・運営・配当・終了各段階における税負担が大きいためである。

     

    図表8で示したとおり、インフラ公募REITの設立段階においては、オリジネーターが対象不動産をプロジェクト実施事業者へ譲渡するため、企業所得税(法人税)などが課せられ、運営段階においては、対象不動産の保有・賃貸などで房産税(固定資産税)、企業所得税などが課せられる。

     

    単純計算すると、設立段階で徴収される税額は対象不動産の資産価値の約2割、運営段階で徴収される税額は年間賃料収入の約2割となる。配当段階では未だ一部の課税方法が確かでない点もあり、設立・運営段階の税負担率が高くなると、投資家への分配にも影響が生じることとなる[図表8]。

     

    [図表8]インフラ公募REITの各段階における課税
    [図表8]インフラ公募REITの各段階における課税

     

    その他、REIT投資において期待される政策支援については、「保険業によるインフラ資産管理への関与の強化および資産管理会社としてREIT発行の容認」が77.0%、「保険業によるREIT設立への関与」が71.6%を占める。

     

    現在REITを発行できるオリジネーターは、対象インフラ不動産の所有権あるいは経営権を持つ事業者のみに限定されているため、保険業によるインフラ公募REITの発行が実質不可能である。調査結果から、保険業はREITの設立段階から関与したいということが分かった。

     

    また、REITに特化した政策・法律が不十分な状況を踏まえ、「REIT関連条例」の整備を期待している保険業が55.4%を占める。現在、中国のインフラ公募REITパイロットプロジェクトは、「証券法」、「証券投資基金法」などが規定する公募ファンドや資産支持証券に基づいて設立されているが、REITに特化した条項が定められているわけではない。

     

    そもそも、中国の資産証券化の発展過程を振り返ってみると、まず制度が十分に定着されていない中、2005年にパイロットプロジェクトが実施され、様々な試行錯誤が繰り返され、最終的に2013年に「証券会社資産証券化業務管理規定」などが施行された。REITも同じような過程を経て、関連政策等は徐々に整備されるだろう。

     

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    本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    本記事は、ニッセイ基礎研究所が2021年12月9日に公開したレポートを転載したものです。

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