(※写真はイメージです/PIXTA)

精神科医や臨床心理士には、患者の心身を蝕む「ボトルネック」を発見し、解消や軽減を図る「対人援助スキル」が求められます。そのありかは脳機能や遺伝的要素、生い立ち、現在の対人関係など様々です。しかし、精神という目に見えない領域であることから把握は難しく、医師は自分の得意分野を限定し、その枠外の人は見てくれない傾向にあります。 ここでは精神医療の実態について、医療法人瑞枝会クリニック・院長の小椋哲氏が解説していきます。

心を対象にした学問に「流派」が無数に存在するワケ

広い工場の中に照らす場所は無数にあり、その場所ごとに発生し得るボトルネックがあるにもかかわらず、すべてを照らす照明をつけることができないなかで、援助者は広い工場の中の照らしたい場所に懐中電灯を当てて、限られた工場の一部を観察することしかできません。

 

さらに、多くの場合、援助者が自分の興味が湧く部分しか照らさず、かつ、それで工場全体が分かったと勘違いする場合がひどく多いのです。

 

心理学のように人の心を対象にした学問では、学説や流派のようなものが無数に存在するのはこうした理由が背景にあるわけです。

 

こうしたフレームの数々を全部マスターすることは難しいので、対人援助の分野ではどうしても、「自覚を伴う一点豪華主義」が最も無難な対応になっているという現実もあります。自身が援助者として役立てる患者は限定されると自覚したうえで、自分がもつフレームが役に立つと分かっている人に対してだけ、援助を提供するわけです。

 

認知行動療法のフレームしかもたない臨床心理士であれば、認知行動療法を徹底的に極めて、それだけを提供するという具合です。認知行動療法が効果的だと考えられる患者は、その臨床心理士に援助を依頼すれば高い治療効果が期待できるというわけです。

 

しかし現実には、患者は自身のボトルネックがどこにあるかは分からないことのほうが圧倒的に多いので、自分のボトルネックのありかと合致するフレームをもつ援助者を求めて、渡り歩くことになってしまいます。

 

そこで、援助を必要とする人に、適切な援助者をマッチングできる能力をもつ援助者のニーズが生まれます。ボトルネックを解消するフレームはもたないけれど、ボトルネックのありかを把握する能力をもつ援助者です。

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    ※本連載は、小椋哲氏の著書『医師を疲弊させない!精神医療革命』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

    医師を疲弊させない!精神医療革命

    医師を疲弊させない!精神医療革命

    小椋 哲

    幻冬舎メディアコンサルティング

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