(※写真はイメージです/PIXTA)

一般企業による農地取得の全国解禁を見送り、国家戦略特区の兵庫県養父市に限る特例を2年間延長しました。民間企業の活動によって生産から製品化、小売までを行う地域農業の第六次産業化が促進される成果を上げましたが、日本の政治はこれを無視するような政策決定をしました。それはなぜでしょうか。

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      規制緩和はできないことをできるようにする

      地方も同じです。政府から補助金をもらう形で維持している地方自治体がほとんどです。そして都市との格差を嘆くのですが、これでは根本的な解決からは遠ざかるばかりです。地方はすでに衰退が激しくなってきています。今の仕組みをすべて維持したまま、地方創生予算をちょっともらって急場をしのごうというのは、言ってみればどくどく血が流失している傷に絆創膏をぺたっと貼るようなものです。本当のところは、僅かなお金をもらったとしても、どうにもならないとみんな分かっているのです。

       

      分かっていながらも、政府の保護の枠組みから一歩踏み出すという決断ができない。これは企業経営でも同じです。潰れる会社も、経営している人には潰れる前にすでに分かっているのです。本当は、みんな「これはもう駄目だね」と思っていても、何もすることがない状態のまま、会社は潰れていくわけです。

       

      勝負して潰れる会社は当然あります。同時に、生き残る会社もあります。仮に、全体のうち勝負に打って出れば8割が生き残れるとします。人は面白いもので、その環境を知っていても自分が2割の側に入るのではないかと心配するものなのです。これは、2002年にノーベル経済学賞を受賞した経済心理学・行動経済学の分野を切り拓いたイスラエル出身のダニエル・カーネマンが唱えた「プロスペクト理論」です。

       

      人は、今持っているものを失う可能性の方が、新たに未来を切り拓く可能性よりも過大に見えてしまうのです。だから、色々な問題のある制度がそのままになってしまい、日本の未来への活力を奪う結果となっているのです。これは現在進行形です。私たちは今、勇気を持たなくてはいけません。

       

      現在の政治や経済、社会に足りないものは、リスクをとる勇気です。そして、その勇気を良いものと評価する、そして支える、そういう文化を作っていかなければいけないのです。

       

      少なくとも、政治が養父市の国家戦略特区の取り組みについて、サボタージュの理論を駆使することは、これは一歩を踏み出した勇気ある人たちを評価しないということですから、そういう政治はやめて、もっと前に進めるような選択ができるようにすることが大事です。

       

      政治のような大きな話でなくても、個人でできることもあります。挑戦する人を勇気づけて後押しすることです。規制緩和は、これまでの仕組みで止めていたことを、できるようにすることです。挑戦していく人たちは、堀が埋められていくのを見て、城から打って出ようと決断した人たちです。打って出て、失敗するかも知れないけれども、新しいフロンティアを見出し、未来が拓ける可能性もゼロではない、それに挑戦しようという人たちを支えサボタージュの論理に乗らないことは、一人ひとりの個人でできるのです。

       

      前向きなことを進めようという政治を支えることは、社会全体の雰囲気やマインドにも良い変化をもたらします。これには、年齢は関係ありません。若くても諦めてしまっていたり後ろ向きの発想をする人もいれば、年齢は高いけれども挑戦し続ける人もいます。年齢的な若さや老いに惑わされず、どんな行動をしているかで応援していけばいいのです。

       

      若い人は老人化しないで一緒に頑張ってほしいし、高齢者と呼ばれる年齢の人たちにも、どんどん青年らしく、しかも経験を活かして頑張ってほしい。先述の養父市では、シルバー人材センターの派遣事業で規制緩和をして、就業時間を延ばしています。これはその後全国展開された施策です。

       

      そうやって挑戦する発想を大切にすることが日本の農業だけでなく、色々な産業を救っていくことになるのです。

       

      渡瀬 裕哉
      国際政治アナリスト
      早稲田大学招聘研究員

       

       

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        ※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

        無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

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        渡瀬 裕哉

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