(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、マネックス証券株式会社が2021年12月10日に公開したレポートを転載したものです。

IPOブームの反面、未発達な株式市場

首相はこうも述べた。「上場を果たしたスタートアップが、さらに成長していけるよう、上場ルールを見直すなど、スタートアップ・エコシステムを大胆に強化します。」

 

実は、岸田首相が議長を務める政府の「新しい資本主義実現会議」が行った緊急提言には、「スタートアップを生み出し、規模を拡大する環境の整備」「IPOプロセス及びSPAC制度の検討」という項目が挙げられている。

 

口では利いた風なことをいう。だが、まるで資本市場をわかっていない。

 

今年はIPOブームであった。IPOの社数は137社となる見通しで、IPOブームにわいた2006年以来15年ぶりの高水準となる。この12月だけでも30社を超えるIPOがある。単月では1991年11月以来30年ぶりの多さだ。

 

起業が増え、未上場スタートアップの裾野が広がり、その先にあるIPOも活況となる。順調にスタートアップのエコシステムが育ち、いいこと尽くめのように思えるが、育っていないものがある。肝心の株式市場が未成熟なのである。

 

東証マザーズ指数の低迷が群を抜いている。IPO投資の資金確保を狙う個人が保有株の換金売りで1年4か月ぶりの安値をつけた後も、その安値水準から戻り切れない。

 

米国ではこんなことはない。PwCによれば2021年第1四半期の米国株式市場とIPO資本市場は、SPAC銘柄の継続的な増加によって記録的高水準となり、389件のIPOにより1250億米ドルが調達されたという。

 

その期間中、米国株市場はひたすら右肩上がりに上昇を続けた。たかだか30社のIPOで需給が悪化し崩れる市場とは大違いだ。市場の厚み、投資家層の厚みが全然違うのである。

 

証券業務においてプライマリーとセカンダリーは車輪の両輪である。厚みのあるセカンダリー・マーケットをつくること、投資家の層を厚くすることなしに、つまり受け皿なくしてスタートアップの成長は望めない。

 

取り組むべきは既存市場の活性化、投資家の利便性向上である。本当にスタートアップ・エコシステムを強化したいなら、岸田首相が一度は取り下げた金融所得課税議論を復活させるようなことは、言語道断である。

 

それなのに、である。あろうことか先週10日(金)にとりまとめられた2022年度与党税制改正大綱で金融所得課税の強化は「税負担の公平性を確保する観点からあり方について検討する必要がある」と明記された。

 

「税負担の公平性を確保する観点」というのは「高所得者層の所得に占める金融所得などの割合が高いことにより、所得税負担率が低下する状況がみられる」ということだが、優先順位が違うだろう。

 

そんなところの「公平性」を追求して、もっと大事なものを殺すのか。市場をしっかりしたものに育てること、投資の流れを太くすること、そういうことに取り組まないで、総花的で聞こえの良い言葉だけ並べている政権では日本株の未来に希望は持てない。

 

TBSの『日本沈没』、サブタイトルは「希望のひと」だ。番組HPのキャッチコピーは「信頼できるリーダーはいますか?」。ドラマの世界の話と現実とが錯綜する。

 

信頼できるリーダーを誰より必要としているのは日本の資本市場である。

 

 

広木 隆

マネックス証券株式会社

チーフ・ストラテジスト 執行役員

 

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