「質の良い暮らし」はすべての感情を受け止めてくれる
「上質な暮らしとはどういうものでしょう?」と尋ねられることがある。暮らしの「質」というものは、一言では言い難い。きっとそれは、朝起きてから寝るまでの日常のなかにあるのだろうと、僕は感じている。
例えばコーヒーを飲む、新聞を読む、食事をする、お酒を飲む。これらを心地よく行えることが、質の良い暮らしなのだろうと思う。
優れたデザインは、こうした日常の行為をさりげなくサポートしてくれる。あくまでも「使い手が主人公」とばかりに控えめに、しかし使う人の五感に作用しながら、住まう人の生活の質を向上していくのだ。ああ、おいしい。ああ、気持ちいい。生活の折々に声をあげたくなる一瞬があるなら、それは満ち足りた時間を味わっているということだ。
もうひとつ、暮らしの質を考えるうえで、ヒントになりそうな話をする。
小さな声で歌うほうが、うまく聞こえる気がする。
昨日の晩に、月明かりがこぼれていた。
庭の外は、雨。窓のなかは、晴れ。
泣きたい時は、好きなだけ泣くことにする。
いちばん私を分かってくれている場所。
これは、センプレがカタログブックを作ったときに、D-BROSの植原亮輔さんと渡邉良重さんが刷り込んでくれたフレーズだ。カタログブックといっても凝ったつくりで、質感の良いイタリアンレッドのページが挟み込んである。このカタログが青山ブックセンターに並んだ日、デザインの好きなプロやアマチュアがこぞって手にとっていたのを思い出す。
この5つのフレーズは、とても感覚的なことだけど、暮らしの本質を突いているといえる。僕たちの日常にはさまざまな出来事があり、喜びも悲しみも等しく訪れる。そのとき、心から笑うことができたか。さめざめと涙を流すことができただろうか。
マインドフルネスとは、喜怒哀楽すべての感情を日常のなかでたっぷりと味わうことでもある。生活空間とは、すべての感情をそっと受け止めてくれる場所なのだ。
田村 昌紀
SEMPRE DESIGN 代表取締役会長
【関連記事】
税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ
親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】