※画像はイメージです/PIXTA

ある相続人が故人から生前に贈与を受けていた場合や、遺贈や死因贈与を受けた場合は、遺産相続で特別受益を考慮しなければなりません。特別受益があった相続人は遺産を前もってもらっていたことにして、遺産相続ではその人の取り分を減らすように調整します。このようにして、相続人どうしで公平に遺産を分けられるようにします。詳しくみていきましょう。

「特別受益の持ち戻し」は免除できる

特別受益は遺産分割のときに相続財産に持ち戻すことが原則ですが、持ち戻しをしないように定めることもできます。これを持ち戻しの免除といいます。

 

被相続人が生前贈与について遺言などで持ち戻しの免除の意思を明示していれば、その贈与は相続財産に持ち戻さずに遺産分割を行います。

 

ただし、被相続人による明示がなくても、被相続人に持ち戻しの免除の意思があったことが類推されれば持ち戻しの免除が認められます(黙示の意思表示)。黙示の意思表示があったかどうかについては、被相続人がどのような目的で贈与を行ったか、前後の事情から推測することになります。

 

配偶者に贈与した自宅の持ち戻しは免除(2019年7月1日から)

これまでは、被相続人が生前に配偶者に贈与した自宅も特別受益とされ、遺産分割のときに相続財産に持ち戻していました。配偶者は相続分から自宅の価額が差し引かれるため、現預金など自宅以外の遺産を十分に得ることができませんでした。

 

平成30年の民法改正では、結婚して20年以上になる夫婦の間で生前贈与または遺贈した自宅について、持ち戻しの免除の意思表示があったと推定することになりました。自宅は持ち戻しの対象ではなくなり、配偶者は現預金を十分に得られるようになります。

相続税の申告では持ち戻しのルールが異なる

特別受益は遺産分割のときに相続財産に持ち戻しますが、相続税の申告では特別受益の持ち戻しは行いません。生前贈与を受けたときにすでに贈与税の対象になっているからです。

 

ただし、次の場合は例外です。

 

〇遺贈、死因贈与

〇死亡前の3年以内に行われた贈与

〇相続時精算課税を選択して行われた贈与

 

遺贈と死因贈与については、はじめから相続財産であるものとして相続税を計算します。死亡前の3年以内に行われた贈与と相続時精算課税を選択して行われた贈与については、特別受益であるかどうかにかかわらず、贈与時の価額で相続財産に加算して相続税を計算します(生前贈与加算)。すでに贈与税を納めている場合は、相続税の納付額と精算することができます。

 

民法の特別受益の持ち戻しと相続税の生前贈与加算の違いをまとめると、[図表3]のようになります。

 

 

[図表3]民法の特別受益の持ち戻しと相続税の生前贈与加算の違い

 

特別受益がある場合は特に相続税の計算ミスに注意

特別受益がある場合の遺産分割の方法と相続税申告での注意点を紹介しました。

 

特に相続税申告では、持ち戻しのルールが遺産分割時とは異なるので注意が必要です。持ち戻しを行う際には贈与時の時価で評価する必要があったり、既に贈与税を支払っている場合には相続税額から差し引かなければならなかったりと計算が複雑になるため、ミスも発生しがちになります。

 

死亡前3年以内の特別受益や精算課税制度を利用した特別受益により持ち戻しの計算が必要になる場合には、相続税に強い税理士に相談することをおすすめします。

 

 

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本連載は、税理士法人チェスターが運営する「税理士が教える相続税の知識」内の記事を転載・再編集したものです。

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