(※画像はイメージです/PIXTA)

PGAツアーは年々レベルが上がってきており、チームには高い専門性が求められています。4大メジャートーナメントに勝つための「チーム・ケプカ」の戦略勝利システムとは。 ※本連載は吉田洋一郎氏の著書『PGA 超一流たちのティーチング革命』(実務教育出版)から一部を抜粋し、再編集したものです。

成長のために決断した「コーチ」の変更

勝つことに対しての集中力はものすごいものが感じられますが、ケプカにとって、それがたまたまゴルフだけだったという気がします。ゴルフそのものが好きというわけではなく、勝つことやキャリアを積み上げることを楽しんでいるのではないかと感じます。だから、メジャー大会の勝利後の3週間ほどは完全にオフにし、その間はゴルフクラブは一切握らないといいます。

 

日本のゴルフ界では、「ゴルフは1日休んだら、技術を取り返すのに3日かかる」と言われていました。3週間も休んだら、試合感覚を取り戻すのに単純計算で9週間かかります。それが彼は休養後に1試合トーナメントに出場した後、メジャーに出場して上位争いをするのです。

 

しっかり働いた後はリフレッシュのために休養を取る。そして、メジャーの前に平場の試合に出て感覚を戻す。メリハリのきかせ方がとてもうまいと言えます。

 

■さらなる成長のためにケプカが選択したこと

 

順風満帆のように見えるケプカですが、2019年秋に左膝をけがしてからはそれまでの勢いがスピードダウンしてきました。とくに、パッティングに不調を来たすようになったのです。

 

そこで、ケプカはそれまでのパッティングコーチ、ジェフ・ピアースからトミー・フリートウッドやジャスティン・ローズを教えるパッティングコーチの第一人者、フィル・ケニオンにアドバイスを求めることにしました。

 

ピアースはかつてブッチ・ハーモンのアカデミーに所属していたコーチで、2013年から長らくケプカのパッティングコーチを務めてきました。ピアースは私もよく知っており、気さくな性格で、ツアー会場で指導方法を教えてくれたり、勉強会にも参加させてもらったことがあります。

 

そのピアースにケプカのパッティングについて話を聞いたことがありますが、ケプカはパッティングストロークがアウトサイドイン軌道になる癖があったそうです。そのため、グリーンにティーを差して、軌道を修正するための練習を頻繁に行っていました。軌道やフェースの向きなどのメカニカルが改善したうえで、距離感を向上させるための練習にも取り組んでいたそうです。

 

ケプカがケニオンに教わったのは、パッティングに関していままで以上にロジカルな要素を取り入れようとしているからだと思います。2メートル以内のパッティングの成功確率を高めるためには、軌道やフェースの向きだけではなく、入射角やボールの転がり方など細かいデータを分析する能力が必要になります。

 

ケニオンはピアースとはタイプの違うパッティングコーチで、ロジカルなティーチングに定評があります。パッティングストロークの現状分析をしてもらうには最適な人選だと思います。

 

もちろんピアースのティーチングスキルも優れていますが、ケプカはいままで以上に高度なパッティングスキルを身につけるため、一流選手の指導経験が豊富で、高度なティーチングを得意とするケニオンの指導を受けたのだと思います。

 

当初、ケプカはセカンドオピニオンとしてケニオンに教わったと思っていましたが、ピアースとコーチ関係を解消したのは従来の取り組みに限界を感じていたのかもしれません。ケプカとピアースはタッグを組んだ7年の歳月で、4つのメジャータイトルを手中に収めました。

 

ピアースは十分役目を果たしたと思いますが、「メジャーしか興味がない」と公言するケプカにとって、さらなるレベルアップのためにパッティングコーチの変更は必要な選択だったのでしょう。ケプカの視線の先には、4大メジャートーナメントの制覇「キャリア・グランドスラム」の達成があるのかもしれません。

 

コーチ目線でピアースの心情を察すると、長年ケプカの勝利に貢献してきただけにつらい気持ちもあると思います。

 

しかし、選手とコーチには出会いと別れがつきものです。選手が同じコーチとタッグを組み続けるというケースもありますが、大半はコーチが変遷していくものです。小学生が中学生になり、高校生になるにつれて教わる内容が変わっていくように、ツアープロもジュニアから若手、トッププロ、ベテランへと階段を上がっていくにつれ、必要なアドバイスも変わっていきます。

 

選手が成長し、ステージが上がれば上がるほど、高度な指導が必要になります。たいていの場合、選手が次のステージに進むと、従来のコーチでは対応できなくなり、次のステージのコーチにバトンタッチしていくものなのです。

 

子どもの成長を喜ぶ親のように、指導者の本当の喜びは生徒の成長です。指導者にとって一番の報酬は、成長した生徒が卒業し、新たな道を歩みはじめる後ろ姿を見送ることなのではないでしょうか。

 

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