「本当は我慢でいっぱいだった」と話す飯田あかり(仮名)さん

今から15年前。完全ワンオペ育児であることを覚悟して、妊娠・出産に踏み切った飯田あかり(仮名)さん。出産後、子どものことだけを考えて育児に取り組んできたあかりさんでしたが、娘さんを突然、ある病魔が襲います。そして、娘さんの治療のさなか、あかりさんは娘の主治医のある指摘によって、救われることになったのです。

親として当たり前の怒り

そんな入院生活のさなか、ちょっとした事件が起こります。娘さんは、朝、採血するのが日課となっていたのですが、ある日、担当看護師がミスをしてしまい、採血のやり直しになったのです。

 

「毎朝、採血をしなくてはならない。それはよくわかっています。が、ミスをされて全部やり直しになったと告げられたとき、私は怒ってしまったんです。娘に負担をかけないようにしてほしいのに! って。怒ってもどうにもならないのに。ミスは誰にでもあるはずなのに……」

 

そんなあかりさんのところに主治医が回診にやってきました。

 

そこで「ミスされて怒ったんだって?」と聞かれて、あかりさんはうつむいてしまいました。

 

感情的になって、情けなくて、ほんとうに申し訳ない。そんな気持ちを話したところ、

 

「あなた、若いときからそんな考え方してるんだろうけど、しんどくない?」
と、思ってもみない言葉をかけられました。

 

あかりさんは、思わず自分のこれまでのことを主治医に話しました。すると……。

 

「それはものすごく辛かったと思うよ。それで自分を律することが身についちゃったんだね。でもさ、今回怒ったのって娘さんのためなんだよね。親として、当たり前の怒りだよ。それをさ、抑えきれなかったからって落ち込んじゃうのは、ちょっと母親の生き方として不自然なんじゃない? もっと自分の感情と仲良くなってもいいと思うよ」

 

そう言われて思わず泣いてしまったあかりさん。

 

「すみません」と謝ると、主治医はさらに続けたのです。

 

「あなた、娘さんの症状を『ただごとじゃない』って思ってここに連れてきただけでエラいわけ。それで短期間でたくさんの決断をしただけでもしんどいわけ。ここは大人が寝るにはベッドは硬いし、食べるものだって冷たいお弁当ばかりでしょ。それでストレス溜めないほうがおかしい。あなたはものすごく、我慢強いんだよ」

本当は我慢でいっぱいだった

その日、ナースステーションに娘さんを預けて、外に食事に出ることにしたあかりさん。温かい食事を食べながら、あることに気づいたのです。

 

「自分に我慢が足りないから、朝、ちょっとしたことで攻撃的になってしまったんだ、と自分を責めていたんですが、もうすでに我慢でいっぱいだったことに気がつきました。
思えばずっと我慢ばかりしてきたような気がします。もう少し、自分の感情と向き合えるようにならないと、と思いました。楽しいことや嬉しいことはともかく、悲しいことも苦しいことも、自分で処理するだけではなく、誰かに話してときに泣いてもいいと思えるようになったんです」

 

やかて、数値も落ち着いたことで娘さんは退院。そして、フォローアップのためにしばらく病院に通っていたのですが、小児科医の退職にともない、小児科が閉鎖。主治医とも離ればなれになってしまったといいます。

 

「今年、ようやく娘の心臓検診に一区切りがつき、この出来事を誰かに話せるまでになりました。今、娘は明るく楽しく高校生活を送っていますが、先生方が適切に医療を提供してくれたおかげと感謝しています。そして、私自身も心の傷と正しく向き合えるようになり、喜怒哀楽そのものを楽しめるようになりました」

 

そう言ったあかりさんは、心のそこから嬉しい、というような微笑みを、こちらに向けてくれました。
 

 

 

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