(写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、ニッセイ基礎研究所が2021年11月26日に公開したレポートを転載したものです。

2. 需要別の現状と見通し

1|個人消費

 

個人消費は低位で一進一退と冴えない動きとなっている。個人消費の代表指標である小売売上高の推移を見ると(図表8)、21年1~2月期に前年比33.8%増の高成長となったあと、8月には同2.5%増まで低下し、その後は9月が同4.4%増、10月が同4.9%増とやや持ち直してきている。

 

但し、物価変動を除いた実質では、1~2月期に前年比34.3%増の高成長となったあと、8月には同0.9%増まで低下し、9月には同2.5%増とやや持ち直したものの、10月には同1.9%増と再び低下することとなった。

 

[図表8]小売売上高の推移
[図表8]小売売上高の推移

 

個人消費が冴えない動きとなっている背景には2つの要因がある。ひとつはコロナ禍が断続的に再発するため“リベンジ消費”が完全燃焼しないことである。北京冬季五輪を来年2月に控える中国では小振りな感染に対しても厳格な防疫管理を行なう“ゼロコロナ”政策を続けており、モノの動き(物流)はコロナショック前(2019年)の水準にほぼ戻ったものの、ヒトの動き(人流)が半分前後の水準で低迷している(図表9)。

 

もうひとつの要因は、昨年来の不動産規制強化とそれに伴う中国恒大集団などの経営不安を背景に住宅販売が落ち込んでいることである(図表10)。住宅販売が減少すれば、家具や家電など住宅関連消費への波及が避けられないため、影響は大きい。

 

[図表9]貨物輸送量と旅客輸送数
[図表9]貨物輸送量と旅客輸送数

 

[図表10]分譲住宅の販売面積の推移
[図表10]分譲住宅の販売面積の推移

 

他方、個人消費を取り巻く環境を見ると、消費者信頼感指数は9月に底打ちし、21年1~9月期の一人当たり可処分所得は実質で前年同期比9.7%増とまずまずの伸びを示し、調査失業率は4.9%とコロナショック前(5.2%)を下回り、半導体不足で不振だった自動車の生産もショックコロナ前を上回るなど消費環境は改善傾向にある。

 

したがって、これから約2年を見渡すと、長らく続いた“ゼロコロナ”政策で溜まったペントアップ需要が一気に顕在化し、“リベンジ消費”が本格化する可能性を秘めている。そして、その到来は北京冬季五輪後の4-6月期が有望と考えている。

 

2|投資

 

投資はここもと前年割れで底が見えない状況にある。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の推移を見ると、21年1~2月期に前年比35.0%増の高成長となったあと、5月には同2.0%減(推定)とマイナスに転じ、その後も6ヵ月連続で前年割れとなっている。

 

投資の3大セクター別に見ると(図表11)、輸出が好調なことを背景に製造業では投資が増えているものの、インフラ投資が4月以降7ヵ月連続で前年割れとなり、不動産開発投資も6月以降5ヵ月連続で前年割れに落ち込んでいる。

※ 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。

 

[図表11]投資の3大セクターの推移
[図表11]投資の3大セクターの推移

 

不動産開発投資にブレーキが掛かった背景には不動産規制強化がある。中国政府(含む中国人民銀行)は商業銀行に対して過剰な貸し渋りを慎むように指導しているが、「住宅は住むためのものであって投機のためのものではない」という基本方針を堅持しているため、不動産開発投資は底割れする恐れが拭い切れない。

 

一方、インフラ投資には底打ちする兆しがでてきた。10月には地方債残高増加額が前年同月と比べて2.5倍に増え、11月には陝西省、広西チワン族自治区、湖北省などで大型建設事業が着工したと伝えられたのに加えて、建築業商務活動指数(予想指数)が上向くなど「両新一重(新型インフラ、新型都市化、交通・水利などの大型建設工事)」が動き出した気配がある(図表12)。

 

また、製造業の投資は底堅いだろう。輸出がピークアウトすればマイナスの影響は避けられないが、“リベンジ消費”で国内消費が盛り上がればそれをあてにした投資が増えると見ているからだ。したがって、これから約2年を見渡すと、不動産開発投資が引き続き足かせとなるものの、インフラ投資が底打ちし製造業の投資が堅調を保つことで、投資全体では低位ながらも底堅い伸びを示すと予想している。

 

[図表12]建築業商務活動指数
[図表12]建築業商務活動指数

 

3|輸出

 

輸出金額(ドルベース)は依然として高い伸びを示している。21年1~10月累計では前年比32.3%増、10月単月でも同27.1%増と好調を維持している(図表13)。しかし、輸出単価の上昇が金額を押し上げている面があり、数量ベースで見ると1桁台に鈍化してきている(図表14)。さらに、世界でワクチン接種が進んでパンデミックが収束し経済活動が本格回復すると、世界に先駆けて生産体制を正常化させた中国の優位性が薄れてくるだろう。したがって、中国に吹いていた追い風は弱まり、コロナショック前の状態に回帰して、輸出のプラス寄与は減少していくと見ている。

 

[図表13]輸出(ドルベース)の推移
[図表13]輸出(ドルベース)の推移

 

[図表14]中国の輸出数量と単価の動き
[図表14]中国の輸出数量と単価の動き

 

次ページ3. 中国経済の見通し

本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

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