(※画像はイメージです/PIXTA)

適切な医療を行うためには、患者との信頼関係が必要不可欠である。しかしながら、患者の権利意識の高まりとともに、信頼関係を築くことが困難になりつつあると感じる医療従事者も増えている。では、どのように患者と向き合い、どのように信頼関係を築いていけばいいのか。弁護士の渡邊泰範氏に、「インフォームド・コンセント」の重要性や利点を踏まえて語ってもらった。

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自己決定権を保障するための、説明義務と患者の同意

インフォームド・コンセントとは、「説明と同意」のことです。医療行為を提供するにあたり患者の自己決定権を尊重するための概念であり、医師は治療を提供する際、患者に病気や検査、治療の内容などの必要な情報を提供しなければなりません。その際、単に説明すれば良いという訳ではなく、説明を受けた患者が内容を理解して、同意をすることが必要です。

 

患者の病気の治療や生命の維持を目的として行う医療行為であっても、患者の身体への侵襲を伴うものです。そうだとすると、医療行為も刑法上の傷害罪にあたるようにも感じますが、「①患者の同意」「②医学的適応性(医療行為が患者の生命・健康の維持・増進に必要であること)」「③医術的正当性(医療行為が医学上承認された医療技術に従って行われること)」があれば、医療行為は違法ではないと考えられています。すなわち、医療行為が違法でないものとするためには、少なくとも患者の同意が必要であり、患者が同意する前提として説明義務があるのです。

 

さらに、現在では侵襲的な医療行為を受ける場面にとどまらず、医療行為の実施にあたり、そもそも治療を受けるのか、どのような治療を受けるのかなど、患者自身が自分の健康や生き方を決めるという自己決定権を保障するために、医師に説明義務を課していると理解されるようになってきています。

 

医療従事者の説明義務は、「①承諾を得るための説明義務」「②療養指導としての説明義務」「③顛末報告としての説明義務」などに分類されますが、自己決定権との関連においては「①承諾を得るための説明義務」が重要です。

 

ところが、患者・家族等に何をどこまで説明すべきかという点について、法律的に明確な規定があるわけではありません。この点について、最高裁判例や厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」を踏まえると、医師は医療行為の提供に際して、「①現在の症状及び診断名」「②予後」「③処置及び治療の方針」「④治療の効果とリスク」「⑤代替的治療法がある場合には、その内容及び利害得失」「⑥実施しない場合の危険性」等について十分に説明する必要があると考えられます。医師がこれらの説明義務に反した場合、患者の自己決定権を侵害したことになり、損害賠償責任を負うことがあります。

 

確立した治療方法が複数ある場合には、上記⑤の「代替的治療法がある場合」に該当するので、医師は患者・家族等に対し、それぞれの治療法について、内容及び利害得失を説明して、患者・家族等の同意を得る必要性があります。

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