(※写真はイメージです/PIXTA)

建物を原状回復させずに鍵を返却してきた借主に対して、貸主が鍵の受取を拒否。原状回復工事の終了後に鍵の返却を受けた場合、工事期間中の賃料は借主に請求できるのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

契約書で「原状回復後の退去に合意しているか」が重要

この問題が争われたのが、東京地方裁判所平成20年3月10日判決であり、本件の事例は、この裁判例をモチーフにしたものです。

 

この問題については、以下のように、契約書において、原状回復をした後に退去すべき、と合意されていると解釈されるかどうかによって判断するのが裁判例の傾向です。

 

1.東京地方裁判所平成20年3月10日判決

「原告が負担すべき原状回復工事については、これを実施した後に被告に本件建物を明け渡す趣旨の契約であると考えるのが相当である。したがって、本件賃貸借契約においては、原告は、原告が実施すべき原状回復工事を完了して本件建物を引き渡すまでは、本件建物の明渡しがあったものとはいえないというべきである。」

 

2.東京地裁平成22年10月29日判決

「賃貸借契約においては、原状回復した上で賃貸目的物を返還することが必要であり」「本件においても、賃借人である被告は、原状回復義務が免除されたなど別段の合意や原状回復義務を否定すべき特段の事情が認められない限り、旧賃貸借契約を開始した時点の原状を回復して本件各土地を返還すべき義務があるというべきである。」

 

3.東京地裁平成23年11月25日判決

「本件賃貸借契約によれば、原告は、本件各建物を原状に復した上で明け渡すものとされており、また、本件各建物を明け渡す際には、本件事務所の1階~4階について、ハウスクリーニングを実施することとされている(甲2)。そうすると、被告は、本件各建物について、上記原状回復及びハウスクリーニングを実施した上で、本件各建物を明け渡さなければ、本件各建物を明け渡したことにならないものと解するのが相当である。」

「しかるに、上記認定のとおり、A社は、平成22年7月30日の時点において、本件事務所のハウスクリーニングが不十分であったり、本件各建物の原状回復工事が少なからぬ箇所で未了の状態であったというのであるから(詳細については、乙9、10)、同日、被告に対し、本件各建物を明け渡したということはできないのであって、上記原状回復工事等を完了し、本件各建物の鍵を被告にすべて返還した同年8月20日の時点で、本件各建物を明け渡したものと認められる。」

 

なお、仮に契約書で、建物明渡前に原状回復義務の履行が明確に規定されていない場合においても、東京高裁昭和60年7月25日判決が

 

「賃貸人が新たな賃貸借契約を締結するのに妨げとなるような重大な原状回復義務の違背が賃借人にある場合には、これを目的物返還義務(明渡義務)の不履行と同視」するものである

 

と判示している通り、新たな賃貸借の妨げとなる重大な原状回復義務の違背があれば、明渡義務を履行したことにはならないと解されると考えられます。

 

したがって、

 

・契約書で明渡し前の原状回復義務の履行が合意されていると解釈されるか

・仮に合意されていなかったとしても、原状回復工事をしなければ新たな賃貸借契約の締結の妨げとなるか

 

という点が重要となります。

 

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