東京大学名誉教授・医学博士で「病院嫌い」な養老孟司氏は、自身の体調の異変に気づくとき、データを見るのではなく「身体の声を聞く」と言います。しかし、それは万人に可能な方法ではありません。日本人の「ヘルスリテラシー」について、養老氏の教え子であり、東大病院の医師である中川恵一氏が解説します。 ※本連載は、書籍『養老先生、病院へ行く』(エクスナレッジ)より一部を抜粋・再編集したものです。

「アジアで最下位」…日本人のヘルスリテラシーの実態

ヘルスリテラシーが低い人は病気や治療の知識も少なく、がん検診や予防接種などを利用しないため、病気の症状に気づきにくく、死亡率も高くなることがわかっています。

 

ヘルスリテラシーの国際比較調査によると、国・地域別のヘルスリテラシーの平均点(50点満点)では、オランダが37.1点でトップ。アジアではコロナ対策でも優等生の台湾が34.4点と最も高かったのに対して、日本はミャンマーやベトナムよりはるかに低い25.3点の最下位でした。

 

ある程度の医療リテラシーを持っていれば、自分の体調の変化にも敏感になれるでしょう。養老先生が言う「身体の声を聞く」ことができるのです。

 

医療リテラシーが低い人は、身体の声が聞こえません。あるいは悪い病気が見つかるかもしれないから、病院には行きたくない、といった本末転倒に陥るのでしょう。

 

養老先生は臨床医ではありませんが、医者(解剖学者)ですから、普通の人よりも高い医療リテラシーを持っています。ただ医療に関わることは、自分の哲学に反することでもあるので、病院に行くというだけであれほど悩むのです。

 

ご本人が書いていましたが、「医療界の変人」です。怖いから病院に行かないという人と同じように考えることはできません。

がん検診だけは受けたほうがよい

私は患者にあまりうるさく言うタイプの医者ではありません。しかし、本稿の読者には健康診断と、がん検診だけは受けてほしいと思っています。

 

現在は日本人の男性2人に1人、女性3人に1人が生涯で何らかのがんにかかります。がんは遺伝子の老化に関わる病気ですから、高齢になるほどがんは増えていくことになります。

 

同時に若い人のがんも増えています。毎年、日本人の100万人以上が新たにがんになると言われていますが、その約3割が20〜64歳の働く世代です。この年齢のがん罹患率は2000年から10年の間に約9万人増えています。

 

 

若い人のがんが増えてきた理由の1つに、健康診断や人間ドック、ほかの病気の検査などでたまたま見つかるケースが増えているからだと考えられています。

 

先ほども言いましたが、がんは早期発見できれば治る病気です。「5年生存率」といって、治療して5年たったらがんは治癒したとされますが、がん全体の5年生存率は68%程度。早期発見できればこの数字は95%くらいまで上がります。決して死に至る病ではありません。

 

 

養老 孟司

東京大学名誉教授

養老先生、病院へ行く

養老先生、病院へ行く

養老 孟司
中川 恵一

エクスナレッジ

あの「あの病院嫌い」の養老先生が入院した!? 自身の大病、そして愛猫「まる」の死に直面した養老先生が、「医療」や「老い」「大切な存在の死」とどう向き合うかなど今の時代のニーズに合致しつつも普遍的かつ多様な書籍で…

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