(※写真はイメージです/PIXTA)

ガソリンや灯油など石油によって精製される製品、プラスチックなど石油化学製品も私たちの生活に密着していて、世界中でも重要な化石燃料資源です。コロナ禍による需要低迷、CO2削減、環境問題…、今後石油業界はどうなるのか、国際投資アナリストが解説します。※本連載は、後藤康之氏の著書『最強の外資系資産運用術』(日本橋出版、2021年4月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

アップル社が時価総額でサウジアラムコを抜く

上流の需給変化の象徴的な大きなイベントがいくつかあり、1つ目はコロナショックによる急激な需要減退も加味されて、米国のWTI原油先物相場は2020年4月20日前後に一時マイナスをつけました。

 

その後原油価格は回復したものの、WTIや欧州のブレント原油ともに1バレル30ー50ドル台でレンジ内での推移となっており、これは2008年7月3日につけたWTI最高値(終値)145.3ドルに比べると、差が歴然とご理解いただけると思います。

 

それに加えて2つ目の出来事として、2020年7月31日にIT王者のアップル社の時価総額が1兆8400億ドル(約193兆円)を付け、世界一の原油産油国で原油埋蔵量を誇るサウジアラビアの国営会社サウジアラムコは同時期で1兆7600億ドル程度(約185兆円)であったため、石油王者がIT王者に時価総額で抜かれてしまったわけです。

 

所謂GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftの略称で、米国のトップIT企業)のようなプラットフォームビジネスをやっている会社の無形資産は、株式市場で高く評価される一方で、以前は国家戦略上重要であり、有形資産であるために確実な担保になる、と見られていた重厚な設備や資産価値が相対的に下がっていくという面でも、衝撃的な出来事だったかな、と理解しています。

 

その上流での過剰供給に引き続き、下流の製油所もコロナショックを通じた世界的需要減(自動車移動や航空移動の低下)の影響も受け、さらに過剰設備状態になっております。下流の製油所も他の部門同様、長期投資が必要な部門であり、且つ常に稼働することで中長期的に一定の利益が得られる、というビジネスモデルであります。しかし足元は世界中で過剰設備状態にもなり、恒久的な閉鎖が必要な設備も見られる、ということです。

 

ここで問題を難しくしているのは、一旦の設備再編で製油所の収益性は一時的に改善するかもしれませんが、もっと中長期的な視点で見ると、CO2排出の減少を目指すパリ協定のような環境的な意識転換に基づいた、伝統的な資源ではない、再生可能エネルギーや省エネ、水素などへのエネルギー源の転換に加えて、各国政府の対応が異なる、という点です。

 

『アナリストは、石油精製業界の先行きについて、多数の製油所の永久閉鎖でマージンがようやく回復した金融危機後に似ているとの見方を示している。各国政府が国内の石油供給確保と雇用維持を目的として救済策を繰り出すケースが多いため、どの製油所がこれから閉鎖されるか予測するのは難しい。』

 

加えて設備であるために、中長期的に競争力(要は低コストでどれだけ効率的に精製できるか)を保つためには、同製油所に対する継続的な投資が欠かせず、また新規の製油所(大抵、さらに低コスト)との競争も激しくなり、といった悪循環にもなっている、とも考えられます。

 

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最強の外資系資産運用術

最強の外資系資産運用術

後藤 康之

日本橋出版

日本の高齢化や年金2000万円問題を背景に、コロナ禍前から注目されていた『資産寿命』というテーマ。 加えて2020年の新型コロナという世界中に影響を与える大きな変化が起こったことで、個人レベルでの『資産寿命』を延ばす…

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